【第1回】 日本の子どもは数学が苦手!?
2022.1.18
これからの時代を生きる力を育むために、数学とどのように関わっていけばよいのか。
本シリーズでは子どもが数学を楽しく学べるようにするために、そして子どもたちの生きる力を育むために数学で何ができるのか、全8編の連載形式でお届けします。
東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授 西村 圭一(にしむら けいいち)先生
東京都立高等学校、東京学芸大学附属大泉中学校、同国際中等教育学校教諭、国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官、東京学芸大学教育学部数学科教育学分野教授を経て、現在に至る。日本数学教育学会業務執行理事、数学教育編集部長、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(高等学校数学科、高等学校専門理数)、Bowland Japan代表、探究オリンピック-明日の思考力コンテスト-委員長、東京学芸大学SSH/WWL合同推進委員など多数。主な編著書に、『真の問題解決能力を育てる数学授業-資質・能力の育成を目指して』(明治図書,2016)などがある。
数学が苦手な子どもが増えている!?子どもが興味をもつ多様な数学教育とは。
日本の子どもは数学が苦手!?
■数学好きな子どもが減っている
国際調査等をみると、算数や数学を勉強すると、日常生活に役立つ、数学を使うことが含まれる職業に就きたいと答える生徒児童の割合が国際平均より大きく下回っています。また、数学やSTEAM教育に対する保護者の意識についても、日本は低いというような調査結果が出ているかと思います。(2019 IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS))
どのような職業においても、数学的思考力は必要だと思いますが、こういった状況について先生のお考えをお聞かせください。
日本では、小中高と上がるにつれて、算数・数学が好きな子は減っていきます。保護者の方の中にもそうだったという方が多いのではないでしょうか。つまり、小学生や中学生の保護者の方も,数学に対してあまりイメージをもたずに学習を終えている割合が多いのではないでしょうか。ただ、その“数学”は、教科書や,問題集や参考書ですよね。あれを思い浮かべて「社会で役立ちますか?」と言われても「まぁ、役立たないよね。」としかならないでしょう。日常生活の中で、高校時代に学んだ数学を使ったことがある人はほとんどいないですよね。役立たないと考えるのも無理はない話だと思います。
日本全体として,そういう状況を変えていくべき時期に来ています。それがSTEAM教育であり、STEAMライブラリー(https://www.steam-library.go.jp/ )等はそういった「きっかけ」になるものだと思います。
■小学生の7割は算数が好き!?
では、なぜ日本は小中高と数学が好きな子がどんどん減っていく状況になっているのでしょうか。
日本の小学生の7~8割程度は,算数が好きな教科だと思っています。意外ですか? みなさんも算数って楽しかったはずなんです。それがだんだん嫌いになってくるというのは、“問題を解ける”ようにすることを大事にしてしまっていることが要因になっていると思います。問題集や参考書の問題、もっというと入試問題が解ければ「数学ができる人」、解けないと「数学ができない人」と思われますし、本人たちもそう思っています。そして数学の先生になっている人は、もちろん、そういうものを解くのが好きな人や得意だった人が大半なので、このような価値観で授業をしてしまっているんですね。これは構造的な問題です。
■海外の子どもたちは
海外ではこういった問題は起こっていないのでしょうか。
海外でも似たような面はあります。しかし、根本的に違うのは,入試が一発勝負,しかも手計算というところは少なくなってきています。日本の入試の場合、短時間であのような問題を,手計算で解かなければなりません。そのために,パターンを覚えて手早く、というトレーニングにどうしても労力を割くことになってしまいます。そのために、教科書をなるべく早くすべて終わらせるということが目標になりがちです。
海外だと、グラフ関数電卓を使っていいところが多いですし,短時間の一発勝負ではないところもあります。そうすると、数学の本質的な面を大事にして教えられるようになります。そこでは、子どもたちとの対話ができるようになるので、「先生、これって何に役立つんですか?」と聞かれた際に、こういうときに使うよという話もできたり、数学としてこういうところが面白いんだよということを語れたりする。そういうゆとりも生まれてきます。