【第4回】苦手意識を持った数学を克服するには?

2022.1.20

【第4回】苦手意識を持った数学を克服するには?

近年、STEAM教育という言葉に注目が集まっています。STEAM教育とは「科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)」の5つの領域を対象とした分野横断的な学びです。社会とテクノロジーの関係がますます密接になっていくこれからの時代、分野横断型の学びを身に付けることが求められています。しかし日本では、国際的にみてもこの中の「数学」に苦手意識をもつ子どもが非常に多く、小学生・中学生・高校生と年齢が上がるにつれてその割合が増加しています。高校の文理選択では、数学が苦手だから文系を選択したという方も多いのではないでしょうか。

これからの時代を生きる力を育むために、数学とどのように関わっていけばよいのか。

本シリーズでは子どもが数学を楽しく学べるようにするために、そして子どもたちの生きる力を育むために数学で何ができるのか、全8編の連載形式でお届けします。


西村先生.jpg東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授 西村 圭一(にしむら けいいち)先生
東京都立高等学校、東京学芸大学附属大泉中学校、同国際中等教育学校教諭、国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官、東京学芸大学教育学部数学科教育学分野教授を経て、現在に至る。日本数学教育学会業務執行理事、数学教育編集部長、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(高等学校数学科、高等学校専門理数)、Bowland Japan代表、探究オリンピック-明日の思考力コンテスト-委員長、東京学芸大学SSH/WWL合同推進委員など多数。主な編著書に、『真の問題解決能力を育てる数学授業-資質・能力の育成を目指して』(明治図書,2016)などがある。



数学が苦手な子どもが増えている!?子どもが興味をもつ多様な数学教育とは。

苦手意識を持った数学を克服するには?



■「7.5.3」の現状

小学校の教科書が今このような形になっているのは驚きました。確かに、7~8割の子どもが楽しいと思うのも納得できます。中学校から苦手意識を持つ子が増えてくるということでしたが、中学1年生からつまづき始めるのでしょうか。

よく“七五三”というんですよ。算数数学好きは,小学生だと7割いたのが、中学生だと5割、高校生だと3割しか残らないんです。学校の授業での学び方の変化の影響が大きいでしょうね。

高校生で考えたほうがよくわかります。中学時代の数学の成績が「5」だった生徒ばかりの高校でも、2学期の中間ぐらいになると,「もうダメ~」という生徒が結構出てきます。意味を理解することよりもやり方を覚えることに価値をおいていると,つまらないと思ってしまったときになかなか復活ができません。


■異なるアプローチをしてみる

どうしたら復活できるのでしょうか。

本当は、そうならないようにすることが大事ですね。ある学び方のレールに乗れなかった生徒が,数学から気持ちが離れていってしまうわけなので、別の学び方をさせてあげれば復活する可能性はあります。同じことを繰り返してもだめだと思います。もう一度ゆっくりやろう,というのはあまりおススメではありません。もう「自分には向いてない」、「興味がわかない」という状態になっているので、違ったアプローチをしたほうがいいのです。例えばコンピューターの数学ツールを使って視覚的に学ぶとか、現実的な問題場面から入るとか。それで「なんでこうなるの?」と問いや疑問をもてれば変わってくると思います。


■「もっと知りたい」を引き出す

ちょっとつまづき始めたら、違う方法を試してみるということが有効なんですね。そういった場合、どういう選択肢があるのでしょうか。

例えば、小学生で計算が苦手という子には、「将来困るから頑張って計算練習しましょう。」というのが今までのやりかたです。でも、手計算ができなくてもそんなに困らない社会になっていることは,本当は大人はもう感じていますよね。それだったらもうそれを認めて、「電卓を使いながら考えていいよ。」と言ってあげれば、その先にある勉強に挑むことはできますよね。

高校でも同じです。なんでもかんでも手だけでやろうとすると、もともとそういうことに関心がある子、向いている子はついていけるけど、そこに関心がない子はついていけなくなってしまいます。今はもう、コンピューターに式をパっと入れればグラフはすぐ表示されますし、式変形だってしてくれます。コンピューターを使えば、高校の教科書の問題の大半は答えがでてしまうかもしれません。何が起こっているかを視覚的に観察して,「おや?」「なんだ?」という問いをもつことを経験させることで、「考えてみよう」「もっと先が知りたい」という気持ちがもっと沸くのではないかと思います。