【第5回】数学を身近な問題として考える!
2022.1.21
これからの時代を生きる力を育むために、数学とどのように関わっていけばよいのか。
本シリーズでは子どもが数学を楽しく学べるようにするために、そして子どもたちの生きる力を育むために数学で何ができるのか、全8編の連載形式でお届けします。
東京学芸大学大学院 教育学研究科 教授 西村 圭一(にしむら けいいち)先生
東京都立高等学校、東京学芸大学附属大泉中学校、同国際中等教育学校教諭、国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官、東京学芸大学教育学部数学科教育学分野教授を経て、現在に至る。日本数学教育学会業務執行理事、数学教育編集部長、学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等協力者(高等学校数学科、高等学校専門理数)、Bowland Japan代表、探究オリンピック-明日の思考力コンテスト-委員長、東京学芸大学SSH/WWL合同推進委員など多数。主な編著書に、『真の問題解決能力を育てる数学授業-資質・能力の育成を目指して』(明治図書,2016)などがある。
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数学を身近な問題として考える!
■海外の入試では手計算をしない!?
確かに自分で「問い」をもてると、「やってみよう」という気持ちになるかもしれないですね。
数学の本質的な部分でいうと西村先生のおっしゃっていることが素晴らしいと思いますが、一方受験勉強ということになると今はまだ手計算ですよね。それに対してはどのようにお考えでしょうか。
やはり、そこはネックになりますね。海外の入試では必ずしも手計算ではないのですが、日本の入試はまだ手計算で実施していますから。以前OECD(経済協力開発機構)の方に、「日本の大学入試は電卓やコンピュータの持ち込みはダメですよ。」と伝えたところ、本当にのけぞって驚いていらっしゃいました。
就職やその先を見た際に、手計算の力ではなく、どういった能力が大事なのかという目で見れば、今の入試で測っている力というものが時代遅れになっているかということがわかるはずなので、社会全体にそういうことを伝えていくしかないと思います。
■「数学的に考える」ことの有用性を実感させる
確かに日常生活で手計算する機会はほとんどないですね。数学を考える際に先ほど先生から伺ったように覚えていくこともたくさんあります。三角関数や微分・積分などいろいろ出てくるわけですが、こういったものは抽象度の高いものですよね。これを日常生活に置き換えたときに、どこで活用できるか全く想像がつかないことが多いです。身の回りの何かと関係しているような考え方ができれば、もっと身近な学問となり、覚えることもできるようになるかと思いますが、そのようなやり方はあるのでしょうか。
身近な題材をもってきて教えようとしても、実はそれが生徒にとっては身近ではない,そんな例が多かったように感じます。教えたい数学が先にあって例を探すので、生徒にとっては興味を持てないのでしょう。そういう部分でミスマッチが起きていることがよくあります。数学の内容の具体例ではなく,「数学的に考える」ことの有用性を実感させることが必要です。
そういう意味では、実感のもてる社会問題を数学を使って解決するような経験をつくれるといいのかもしれません。例えば東京大学の西成先生が行っている、「渋滞学」はそれにあたると思います。
※渋滞学:渋滞をおこすもの=車、人、生物など。これらの共通の集団行動を扱う。