【第3回】 非認知能力を伸ばすために ~前編~

2022.1.31

【第3回】 非認知能力を伸ばすために ~前編~

210601-111121b_2.jpg岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授(教育方法学)中山芳一(なかやまよしかず)先生
1976年1月、岡山県岡山市生まれ、現在45歳で3児の父親。岡山大学教育学部卒業後、当時は岡山県内に男性一人といわれた学童保育指導員として9年間在職。学童保育の研究が将来的な学童保育の充実に必要不可欠と確信し、教育方法学研究の道へ方向転換した。現在は、岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授として学生たちのキャリア教育や課外活動支援を担当するとともに、全学生必修の初年次キャリア教育の主担当教員も務める。そして、20年以上に及ぶ小学生と大学生の教育経験から、「非認知能力の育成」という共通点を見出し、全国各地で非認知能力の育成を中心とした教育実践の在り方を提唱している。現在、幼児教育や小中高校の教員、一般の児童・生徒や保護者を対象とした講演会の回数は年間250件を超える。

これまでの主な著書
・『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』 (2021年、日経BP)
・『大学生のための教科書』 (2020年、東京書籍)
・『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』 (2020年、東京書籍)
・『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』 (2018年、東京書籍)
・『新しい時代の学童保育実践』 (2017年、かもがわ出版)
・『コミュニケーション実践入門』 (2015年、かもがわ出版) 



家庭で伸ばそう!
学力テストで測れない非認知能力!!

非認知能力を伸ばすために ~前編~



非認知能力は自分の意識で伸ばす力

私たちは、生まれながらに持ち合わせている気質をベースにして、その後のいろんな経験と学びから自分自身の非認知能力を伸ばしていきます。特に、まだ小学生になる前の幼児の場合は、先ほどの気質がとても大きく影響してしまうでしょう。その後も、もちろん気質は私たちの非認知能力のベースになって影響を与え続けます。ただし、児童期以降には、自分のことを客観的に見られるようになったり、自分の意識を明確に働かせたりできるため、幼児期とはずいぶんと異なってくるのです。

 例えば、内向的な気質が強い子どもは、幼児の頃から忍耐強く一つのことに取り組むことができるでしょう。その一方で、内向的な気質のために周囲とオープンマインドでかかわることが苦手になってしまいがちです。しかし、小中学生になっても高校生や大学生、さらには成人になってもその状態が続くのかというと決してそうではありません(もちろん個人差はありますが…)。では、このときに本人の中に一体何が起きているのでしょうか? それが、冒頭の話になるわけです。

 「計算をもっと早く正確にできるようになるぞ!」「英単語を2000単語覚えるぞ!」これらはいずれも認知能力に該当するものですが、仮に本人がこのように意識したとしても、これらに応じた具体的なトレーニングがなければ可能にすることはできません。つまり、意識も大切なのですが、同時にトレーニング(訓練など)を経ることが認知能力の獲得・向上には必要不可欠なのです。さらに言えば、特定の認知能力を獲得させるために、保護者がお金を投じてもっとスペシャルなトレーニングをわが子に提供すれば、本人の意識以上の効果をもたらす可能性も大いにあります。そのため、こうしたことから学力格差は経済格差だといわれるようになったのです。

 しかしながら、個人の内面に深くかかわってくる非認知能力は、いくら外側からリッチでスペシャルなトレーニングを提供されたとしても、本人の中で「もっと我慢できるようになろう」「もっと積極的になりたい」「これからは折り合いをつけられるようにしよう」などの意識を自らの中で働かせなければ伸ばすことはできません。つまり、様々にある非認知能力としての共通点は、自分の意識で伸ばすこと…言い換えるなら、自分で自分に言い聞かせることが必要不可欠になってくるのです。繰り返しになりますが、特に自分のことを客観的に見ることができ、はっきりと意識を働かせられる小学生以降の発達段階において、とても大切な考え方になるでしょう。


「意識づけ」はできても「押し付け」はできない

それでは、私たち大人が子どもたちの非認知能力に対して、どのようなアプローチができるのでしょうか? 非認知能力は、子どもが自分の意識でしか伸ばせないというのなら、私たち大人は何もせずにただ放っておくしかないのでしょうか? ここで大切な考え方が、私たち大人は子どもたちにとって「環境の一部」であることなのです。子どもたちが私たちという環境と出会うことで、自分自身の中に変化が生まれることは十分あり得ます。つまり、私たちは子どもが自分の中で意識を働かせるためのきっかけ(意識づけ)になることができます。ただし、子どもに「もっと我慢しなさい!」「もっとやる気になりなさい!」「友達と仲良くしなさい!」などの押し付けをすることはできません。子どもたちに私たちの言うことをきかせるのではなく、子どもたちが私たちとのやりとりを通して、自分は「もっと〇〇〇〇になりたい!」とか「もっと△△△△にならなければ!」と意識できるようになれるかが重要なポイントになるのです。

 従って、意識づけと押し付けとの決定的な違いは、私たち大人はあくまでも子どもたちにとって環境の一部であって、子どもたちが私たちから何かを受け取ってくれるかどうかは、結局のところ子どもたちに委ねなければならないという点です。その点では、強制力を発揮できる押し付けは、ある意味ではとても簡単なのかもしれませんね。