【第5回】 見取りとフィードバックで意識づけを! ~前編~

2022.2.3

【第5回】 見取りとフィードバックで意識づけを! ~前編~

210601-111121b_2.jpg岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授(教育方法学)中山芳一(なかやまよしかず)先生
1976年1月、岡山県岡山市生まれ、現在45歳で3児の父親。岡山大学教育学部卒業後、当時は岡山県内に男性一人といわれた学童保育指導員として9年間在職。学童保育の研究が将来的な学童保育の充実に必要不可欠と確信し、教育方法学研究の道へ方向転換した。現在は、岡山大学全学教育・学生支援機構 准教授として学生たちのキャリア教育や課外活動支援を担当するとともに、全学生必修の初年次キャリア教育の主担当教員も務める。そして、20年以上に及ぶ小学生と大学生の教育経験から、「非認知能力の育成」という共通点を見出し、全国各地で非認知能力の育成を中心とした教育実践の在り方を提唱している。現在、幼児教育や小中高校の教員、一般の児童・生徒や保護者を対象とした講演会の回数は年間250件を超える。

これまでの主な著書
・『東大メンタル―「ドラゴン桜」に学ぶやりたくないことでも結果を出す技術』 (2021年、日経BP)
・『大学生のための教科書』 (2020年、東京書籍)
・『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』 (2020年、東京書籍)
・『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』 (2018年、東京書籍)
・『新しい時代の学童保育実践』 (2017年、かもがわ出版)
・『コミュニケーション実践入門』 (2015年、かもがわ出版) 



家庭で伸ばそう!
学力テストで測れない非認知能力!!

見取りとフィードバックで意識づけを! ~前編~



フィードバックは価値の共有

前回の受験生の保護者の方のエピソードを覚えていらっしゃいますか? まさに、結果だけではなくプロセスを見取り、その見取った姿をとても適切なタイミングでフィードバックすることでわが子の意識づけが叶っていたと思われます。そのため、受験生だったその子が社会人になった後でも、なお意識し続けることができていましたね。

 つまり、プロセスの中でわが子のステキな行動や姿を、レンズを使って豊かに見取ることが前提となり、その上でわが子へ確かなフィードバックをしていくことが大切なのだとわかります。そうすることではじめて私たちは、子どもたちと「それはステキなことだよ!」と価値を共有できるようになるのです。見取るだけで終わるのではなく、見取った上でフィードバックをして、そこから価値の共有をしていく必要があります。

 ただし、この場合の価値の共有には「伸ばしてほしい価値」だけではなく、「伸ばしてほしくない価値」もあることを忘れてはいけません。応用行動分析学の知見を借りるなら、前者を好子(こうし)と呼んで「行動強化」へとつなげていきます。一方の後者は嫌子(けんし)と呼んで「行動弱化」へとつなげていきます。少し専門的な話になってしまいましたが、簡単に言ってしまえば「ほめる」という行動強化も「叱る」という行動弱化も、私たちは価値のある(ない)こととして共有しているのです。そのためにも、わが子のいろいろな姿や行動を見取る中でフィードバックして価値の共有をしていることになります。


豊かな見取りと確かなフィードバックを!

先ほどの通り、子どもたちと価値を共有するためのフィードバックは、まず子どもたちのいろいろな姿や行動を見取ることから始めなければなりません。言うまでもなく、この見取りは豊かであればあるほど望ましいのです。では、豊かな見取りとはどんな見取りなのでしょうか? これには2つの重要なポイントがあります。まず1つ目に、気づきにくいことであっても気づけるという点です。例えば、前回ハサミを渡すときに持ち手を向けて渡してくれた事例を紹介しましたが、これって結構当たり前のことになっていませんか? 実は、この「当たり前」にこそ落とし穴があるのです。私たちはついつい子どもたちが普段から見せる姿や行動に対して「当たり前バイアス」がかかってしまっています。そのため、本来であればとても価値ある姿や行動なのに、私たちが見取れなくなっている事態が起きてしまうわけです。

 だからこそ、私たちはできるだけ「当たり前バイアス」がかからないように、それは「有難し(めったにない貴重な)こと」として気づいていく必要があります。さらに言えば、本人でさえ当たり前になってしまっていることを私たちは当たり前にしない(有難しことにする)のです! ある時、このような話を聞いた一人の女子学生が私に「それってどういうことですか?」と質問してくれました。その学生をふと見ると、私はその学生が飲んでいるペットボトルの下にタオルハンカチが敷いてあることに気づきました。そこで私は「ほら、それだよ!」と話しかけます。彼女は、私が言わんとしていることにまだ気づいていません。なぜなら、彼女にとってそれは当たり前のことだからです。私は続けて、「なんでそこにタオルハンカチを敷いているの?」と問います。彼女は私の問いかけに対して「だって机が水滴で…」と答えてくれながら、私が言わんとしていることにハッと気づいてくれました。そうなのです! 彼女はまさに「他者とつながる力」を発揮していたにもかかわらず、彼女の中でそれはすでに当たり前のことになってしまっていたのです。それを、改めてステキな(価値ある)姿や行動として掘り起こすことができたというエピソードです。

 さて、もう一つ見取りについて紹介しておきましょう。専門用語では「リフレーミング」といわれるものなのですが、これはわが子の姿や行動をマイナスにとらえがちならば、それをそのままプラスにひっくり返してしまおうという方法です。先ほどの当たり前を有難しに変えることに加えて、このマイナスをプラスにひっくり返すことができれば、まさに豊かな見取りにつなげていけるのではないでしょうか。例えば、わが子が引っ込み思案な子どもだとしたら、みなさんはそのままその子を「引っ込み思案な子ども」としてとらえますか? 「感情的な子ども」はどうでしょう? 「八方美人な子ども」はどうですか?

 これらをいったんひっくり返してみるのです。どうしても否定的にとらえてしまっていることに対して、引っ込み思案は「思慮深い」へ、感情的は「自分に素直」へ、八方美人は「人当たりの良さ」へ…いかがですか? 実際には同じ姿や行動なのですが、私たちのとらえ方次第でマイナスにもプラスにも変えることができるわけです。マイナスにとらえがちなわが子をいったん立ち止まってプラスにひっくり返してからフィードバックしてあげてください。きっと、みなさんのとらえ方の変化は、お子さん自身の意識の持ち方にも大きく影響してくることでしょう。

 そして、みなさんがレンズを使って見取った後のフィードバックについては、タイミングのコントロールが大切になります。例えば、ハサミを渡すときに持ち手を向けて渡してくれたわが子には、すぐさまその場で(即時的な)フィードバックを…。このようなタイミングであれば、なによりもわかりやすく価値を共有できます。また、前回の受験生のお母さんのように合格した時などの見計らった(適時的な)タイミングでフィードバックすれば、わかりやすさ以上に後々になっても意識に影響を与えていけるぐらい響きやすく価値を共有できることでしょう。ぜひ、豊かに子どもたちを見取った上で、タイミングを駆使した確かなフィードバックをやってみてくださいね。