世界の非認知能力

フィンランドで教員をつとめた務めた徳留宏紀さんに現地の学びと非認知能力教育をきく(前編)

2024.8.16

フィンランドで教員をつとめた務めた徳留宏紀さんに現地の学びと非認知能力教育をきく(前編)

予測不能な未来を生き抜くために育みたい力として注目を集めている「非認知能力」。偏差値やテストの点数、IQなどとは異なる、心や内面に関わる力を指し、創造性、自分を信じる自己効力、忍耐力、決断力、疑う力、コミュニケーション力、表現力、など、さまざまな力が含まれます。海外では、そのような能力はどうとらえられ、生活や教育に息づいているのでしょうか。今回は、日本およびフィンランドで教員を務め、現在は幼児教育に携わっている徳留宏紀さんにお話をうかがいました。

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徳留宏紀さん
三宅町立三宅幼児園園長(奈良県幼保連携型認定こども園)。2013~2022年まで大阪府泉佐野市立新池中学校教諭を務める。2023年から1年間、フィンランドのヘルシンキ国際高校(Helsingin kielilukio)に勤務し、現地での生活を満喫するとともに、さまざまな出会いに恵まれたのち、日本に帰国。現在は、保育・幼児教育の世界を舞台に日々、管理職として奮闘中。
【主な著作】『教員だった僕がフィンランドで見つけた、「今」
を生きるために大切な5つのこと: ~「どうありたいか」「どう生きたいか」を探す365日の旅~』(単著、教育開発研究所) 『スウェーデンと日本発!非認知能力を伸ばす実践アイデアブック』(共著、東京書籍)


(この記事は、全2回のうち前編です。

 

フィンランドとの出会い、そして再渡航

私とフィンランドの出会いは、5年前。公立中学校の教員を務めていた頃にさかのぼります。1週間の視察で、お互いにリスペクトをもちながら生き生きと学ぶ教員や生徒たちの姿を見たときから、自分の心の中のどこかをずっとフィンランドが占めていました。中学校の教員はとてもやりがいがある仕事でしたが、コンフォート・ゾーンから抜け出して挑戦したいという気持ちと、子どもたちにも挑戦し続ける姿を見てもらいたいという気持ちから再びの渡航を決意。中学の教員を退職し、教員時代から幸せに生きるために育みたい力として注目してきた非認知能力に関する研究に岡山大学で携わった後、今度は1年間にわたってフィンランドのヘルシンキ国際高校でアシスタント・ティーチャーを務めることになりました。帰国後、現在はご縁をいただいた公立幼児園で園長として勤務しています。



フィンランドにおける学びと教員

フィンランドにも日本の学習指導要領のようなナショナル・カリキュラムがあり、そこには思考力やマルチリテラシー、アントレプレナーシップなどを含む、身に付けたい7つの力が示されています。しかしそれをどう日々の学びに落とし込むのかという点は日本以上にそれぞれの先生に任されています。フィンランドでは教員になるためには修士課程まで終えなければなりません。お互いをリスペクトする文化に加え、アカデミックなバックグラウンドがあること、先生のプロ意識が高いことが先生への信頼感とこのような自由度の高い学びの形を支えているのかもしれません。

 

滞在中、さまざまな先生の授業にアシスタントとして入りましたが、特にラウラという先生の授業は生徒が安心感をもって授業に臨めること、生徒が選択肢をもてることを大切にしており、とても多くのことを学ばせていただきました。演習の時間に教室の外で学びを深めたり、廊下の机で勉強したりと、自由に学ぶラウラ先生のクラスの生徒たちはとても生き生きしていました。安心感があってこそ生徒のさまざまな力を育める、そのための環境作りとサポートが教員の一番大切な仕事である、という彼女の考えは、教科や言語は違えど、自分が中学教員時代に大切にしていたことと通じるものがありました。

 

これは先生と生徒の間だけではなく、先生とそれを評価する管理職の先生の間にも言えることです。私も先生方の評価を行う立場ですが、成果だけでなく、子どもたちの学びのためにどう働きかけたのか、それが十分だったかを見ます。そして、評価の数字なりアルファベット自体を重視するのではなくその評価にいたった経緯を話し、認識をすり合わせてさらなる成長を目指してもらえるようにすることを大切にしています。

 

当たり前のものとして息づく非認知能力

フィンランドの高校では、全国一律で行われる卒業試験の点数で進路が決まるため、その試験に向けた勉強に多くの時間が割かれています。一見、認知能力重視の教育のように見えますが、私が日本で非認知能力について学んできたことを話すと、「ソフトスキルね」と誰もが非認知能力を当たり前のものと受け入れていることが印象的でした。

 

小学校に視察にいくと、「See the good」というカラスの絵の描かれたカードセットがほぼどの学校でも活用されています。各種の強みが書かれたこのカードセットを使って、子どもたちは自分や友だちの良いところを語るための言葉を増やしていきます。「私たちは失敗しない子どもを育てるのではなく、失敗してもしなやかに立ち直れるよう子どもたちを育てたい。だからこそ強みにフォーカスしているんだ」と語ってくれる教員もいました。このような土台があるからこそ、試験に向けた準備で忙しくなる高校においても非認知能力への意識が学びの中に自然に息づいているのではないか、そして、お互いをリスペクトする文化が老若男女問わず浸透しているのではないかと感じました。


(後編へ続く)