挑戦を支えるパートナーシップ~探究ではビジネスパートナー~(大手前高松中学・高等学校)

2023.8.28

挑戦を支えるパートナーシップ~探究ではビジネスパートナー~(大手前高松中学・高等学校)

学校という枠を飛び出してさまざまなことに挑戦されている生徒さん。その挑戦を支える先生。そこにはどのような背景や考え、サポートがあったのでしょうか。今回は、地域や企業、そしてそこに住む若者をつなぐ探究学習のためのプロジェクトに高校生でありながら運営スタッフとして関わる大手前高松中学・高等学校(香川県)3年生 影 優伽さんと同校の合田 意先生にお話をうかがいました。


影さん:

私は現在高校3年生です。昨年から、香川県内の若者と地域や企業をつなぐ探究学習のためのプログラム「プロジェクトToBe」に現役高校生スタッフとして参加しています。ToBeは、香川県の地元企業に来校いただいてお話を聞き、仕事とは何かということや自分のキャリアについて考えたり、企業の課題を解決するアイデアを考えたりする中高生向けの探究授業を実施するプロジェクトです。


これまでも校外のイベントに参加してみたことはあったのですが、プロジェクトに関わるのはToBeが初めてでした。中高生の前でのファシリテーションと、昨年後半からはテキストの改訂も担当しています。


ToBeへは合田先生にお声がけいただいて参加することになったのですが、それ以前を振り返ってみると、転機となったのは中学2年時の探究の授業で、誰かの目線になってその人の困りごとについて考えるワークに取り組んだことだと思います。クリエイティブな発想をしてみる、新しく何かを生み出すことの楽しさに気付き、そこから校外のイベントなどに参加するようになりました。

 

最初はただクリエイティブなアイデアを出すことを楽しんでいたのですが、さまざまな人と話をするうち、それをアイデアで終わらせず、形にするためにはロジカルな考え方が必要ということに気付き、その視点でも自分の取り組みを見直すようになりました。もともと文系な考え方だと友だちに言われることが多かったのですが、ロジックを追求するようになってからは、変わったねと驚かれることもあります。周りの友だちは自然に受け入れ、応援してくれています。ToBeをはじめとするプロジェクトやイベントなどで、学校外でアクティブに活動している友だちもたくさんできました。

 

運営スタッフとして取り組む中で、感じている課題感が2つあります。1つめは、生徒の皆さんが課題解決のアイデアを考えるとき、面白いアイデアはたくさんでるのに、ロジックが抜けていることが多いということです。アイデアを実現させるときに欠かせないロジカルな力をどうしたら伸ばせるか、ということは大きな課題の一つです。2つめは、双方向型で、生徒の皆さんもアクティブに取り組める授業をどうしたら作れるか、ということです。

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現在は、ToBeの他にも、ロジカルな力を伸ばすことを目標とした学内でのプロジェクトにも取り組んでおり、現在、授業の半分くらいが終わったところです。力がどう伸びたか、また、見えてきた課題などを夏休みも活用して整理したいと考えています。

 

このように探究のプロジェクトに取り組んでみて、その教育効果の可視化は本当に難しいということを実感しています。将来は、教育について学べる大学へ進み、探究のよりよい効果測定の方法を追求していけたらと考えています。

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合田先生:

ToBeは影さんの先輩にあたる若者が立ち上げ、私もメンターとして関わっているプロジェクトです。探究の授業の教材は数多くありますが、ほぼすべて、大人が作っているものだと思います。生徒の目線も踏まえて開発・改善がなされているところがToBeのオリジナリティであり、メンバーに現役高校生がいることは非常に重要な要素でした。

 

このプロジェクトのメンバーに影さんを推薦したのは、彼女の「突き詰めて考える力」、そして「物事と好き嫌いや先入観を切り分けて考えられる力」がプロジェクトを進めていくにあたり重要な能力だと考えたからです。授業担当として関わった時、生徒に必ず書いてもらっているリフレクションシートで彼女の物事を深く考える姿勢を知り、その頃からこのプロジェクトへの推薦を考えていました。

 

彼女は学校外で様々な活動に取り組んでいますが、生徒が誹謗中傷を受けたりして傷つくようなことのない、安心安全な場であることは分かっているので、全く心配はしていません。むしろ、このようなプロジェクトやビジネスコンテストに挑戦し、プレゼンがうまくいかなかったり、アイデアが出なかったりといった経験は、失敗ではなく成功。どんどんチャレンジして、今のうちに悔しい思いをたくさんしてもらいたいと考えています。

 

影さんにも、最初はこんな場があるよとさまざまな機会を私から紹介していましたが、そのうちにその場で勝手に人脈を作り、「次はこれに行ってみていいですか?」と自分で活動を広げていくようになりました。今ではもう、どんどんやって、と応援する立場になっています。相談に乗ることももちろんありますが、影さんから、「どうしたらいいですか?」と聞かれることはありません。自分はこうしたらいいと思っているけど、何か足りない、その視点をちゃんとくださいね、という質問です。とても頼もしく感じるとともに、こちらもそれに足るアドバイスをと身が引き締まる思いです。

 

私はToBeのキーワードは「伝承」だと考えています。このプログラムで重要なのは、受講者であった経験を生かした教材改良やファシリテーションです。受講者の視点も盛り込みレベルアップしたプログラムを受けた生徒が、新たな課題感を持ち、それに取り組んで改善し、次の世代に伝えていく。この持続的なサイクルを回し、さらに上を目指していくことです。社会の変化のスピードがこんなにも速い中、学校だけが変わらず同じレベルの生徒を送り出していて良いわけがありません。

 

高校2年生の段階で高校1年生を相手に授業を行う。影さんの挑戦は前代未聞の取り組みですし、影さんのさまざまな能力のおかげで実現したことでもあるのですが、誰かができたという状況を作ってくれたことは、非常に大きな功績だと思っています。生徒が後輩に授業を行ったという実績があれば、自分もやってみようかなと思える。ファーストペンギンになることは勇気が必要ですし、とても難しいことです。それをやってくれたことは本当にすごいと思っています。

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影さん:

こんな風に思われていたんですね(笑)

 

「突き詰めて考える力」を挙げていただきましたが、これは親の影響もあるかなと思います。小さな頃から、母は私に「それってどういうこと?」など、常に考え、言語化させるような質問をしてきました。親の考えは絶対ではなく、意見の一つとして捉えなさいという考えのもと、「あなたはどう思うの?」と意見を求められることが多くありました。成長に従ってさらに深いディスカッションをするようになり、突き詰めて考えるという姿勢がいつの間にか身に付いていたのかなと思います。父はとても知識が豊富で、質問するといつでも、辞書のようにたくさんの知識をくれました。現在の学外でのプロジェクトに関しても、両親は応援してくれています。一つひとつの行動に対してゴールをしっかり定め、プロジェクト終了後には成果だけでなく学びをしっかり整理するようアドバイスをもらっています。合田先生というロールモデルと、この両親の教えが、私の挑戦の根幹にはあるのかなと思います。

 

合田先生:

私は物理の教員であり、影さんに物理も教えています。物理という教科においては、私たちは知識をもつ教員と、教わる生徒、という一般的な教師と生徒の関係です。しかし、探究においてはその思い込みを外すのが大事なのではないかと感じています。探究における影さんと私は、完全なビジネスパートナーです。人間としての経験は私の方が多く積んでいるかもしれませんが、教材を作るときにも、私にない視点を彼女はもっています。「生徒の立場からどう思う?」とか、「ここに悩んでいるのだけど、どう思う?」などと相談をし、日々ディスカッションをしています。探究というと、何をやるかというところに話が終始してしまいがちですが、それ以前にこのような生徒との関わり方など、もっと大事なものがある、ということに、影さんを通じて気づかされています。

 

学校現場は、変わりつつありますが、まだ感覚が主になっている部分も多くあります。もちろんそれも重要な要素ではありますが、さらなる数値化や見える化も必要になるでしょう。影さんが今後、興味をもっている教育学的な理論の研究を突き詰め、そしてそれがプロダクト開発などにつながっていったら日本の教育はもっと面白くなっていくんだろうな、と期待しています。これからもどんどん失敗(=成功)を積み重ねて、頑張ってほしいと思っています。