
【第2回】本を通して世界に出会おう ー中欧文学者編 言語表現の可能性ー
2021.12.14
そしてこの発明は人類に大きな衝撃を与えます。これまで残すことができなかった軌跡を記録できるようになり、場所や時を超えて知恵や物語が共有されるようになったのです。
「読むこと」は自分の知らない世界へ一歩踏み出すチャンスです!そして先人の悩みも発見も知恵をも時空を超えて得ることができるでしょう。
本連載では様々な分野で活躍する人たちの ”中高生にいま読んでほしい本” を紹介します!
多くの出会いがありますように。
東京大学大学院博士課程在籍 須藤 輝彦(すどう てるひこ)
東京大学大学院博士課程在籍。中欧文学者。ミラン・クンデラを中心に、チェコと中欧の文学を研究する。論文に「偶然性と運命」、Web連載に「燃えるノートルダム」、短篇小説に「中二階の風景」など。
訳書に『シブヤで目覚めて』、『美術館って、おもしろい!』。
言語表現の可能性
新聞、論文、ツイッター。喧嘩、団欒、契約書。ことばの使われ方はさまざまですが、その可能性をもっとも広く、深くまで追求したのは、やはり文学だと言っていいでしょう。だからこそ、経験したことのないなにかにぶつかって「ことばを失う」経験をしたとき、文学の仕事がじつはもっとも頼りになるのです。
◯ 谷川 俊太郎『自選 谷川俊太郎詩集』(岩波文庫、2013年)
カテゴリー:文学(詩)
『二十億光年の孤独』(1952年)で鮮烈なデビューを飾ってから現在に至るまで、日本詩界のスターであり続ける谷川俊太郎の詩集。さまざまな文体で書き分けられた詩作品からは、日本語表現の豊かな可能性を感じることができます。詩がわからない、わからないながらになんだか知りたい、という方には荒川洋治『詩とことば』(岩波現代文庫、2012年)がおすすめ。詩や文学のことばを受けとるとはどういうことか、よくわかると思います。
『自選 谷川俊太郎詩集』
谷川俊太郎, 2013, 岩波文庫
www.amazon.co.jp/dp/4003119215
◯オウィディウス『変身物語』(中村善也訳、岩波文庫、上下巻、1981、1984年)
カテゴリー:文学(神話・伝説)
いまどきなんでオウィディウスかって? 答えは読んでみればわかります。文字通りなんにでも変身してしまうユピテル(ゼウス)を筆頭に、ときに過剰に人間らしい神々たちを描く短い物語の数々からは、人間の想像力の計り知れなさ、その秘密が感じとれるでしょう。聖書やギリシア悲劇とならんで西洋芸術の偉大な元ネタであるギリシャ・ローマ神話ですが、この作品ほどその世界が面白く、高い文学性を持って、読みやすいかたちで書かれたものはないんじゃないかと思います。神話に興味を持ったら、ついでに日本の『古事記』も(現代語訳などで)読んでみましょう。最初だけでもいいです、すごく面白いですから。
『変身物語』
オウィディウス, 中村善也訳, 上下巻, 1981, 1984年, 岩波文庫
www.amazon.co.jp/dp/4003212010
◯ ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳、岩波文庫、上下巻、2015年)
カテゴリー:文学(小説)
「20世紀ロシア文学最高の奇書」として知られる、スケール特大のはちゃめちゃ小説。コメディ、サスペンス、社会風刺、ファンタジーなど多彩なジャンルを取り入れ、読みだしたら止まらないエンタメ性がありながら、悪、信仰、芸術、そして愛の問題を鮮烈に、しかも丸ごと描いた奇跡のような作品。サタンも出てくれば、キリストも出てくる。小説という芸術形態の途方もない自由を、ぜひ味わってください。
『巨匠とマルガリータ』
ブルガーコフ, 水野忠夫訳, 2015, 岩波文庫
www.amazon.co.jp/dp/4003264827
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