
【第3回】本を通して世界に出会おう ー中欧文学者編 知ることと考えることー
2022.1.7
そしてこの発明は人類に大きな衝撃を与えます。これまで残すことができなかった軌跡を記録できるようになり、場所や時を超えて知恵や物語が共有されるようになったのです。
「読むこと」は自分の知らない世界へ一歩踏み出すチャンスです!そして先人の悩みも発見も知恵をも時空を超えて得ることができるでしょう。
本連載では様々な分野で活躍する人たちの ”中高生にいま読んでほしい本” を紹介します!
多くの出会いがありますように。
東京大学大学院博士課程在籍 須藤 輝彦(すどう てるひこ)
東京大学大学院博士課程在籍。中欧文学者。ミラン・クンデラを中心に、チェコと中欧の文学を研究する。論文に「偶然性と運命」、Web連載に「燃えるノートルダム」、短篇小説に「中二階の風景」など。
訳書に『シブヤで目覚めて』、『美術館って、おもしろい!』。
知ることと考えること
ことばは表現のためだけにあるのではありません。なにかを知るため、理解するため、考えるためにもなくてはならないものです。つまりは、世界をどう受けとるか──このワクワクするような難問に、あなたなりに立ち向かうための3冊。
◯ 松岡正剛『17歳のための 世界と日本の見方』(春秋社、2006年)
カテゴリー:歴史・評論
日本を代表する「知の巨人」のひとり、松岡正剛が、世界と日本、社会と文化というテーマを縦横無尽に、わかりやすいことばで語る。知ることは面白い、考えることは楽しい──松岡さんが本書で実践してくれているのは、そんな正しい「教養の使い方」だと思っています。類書のうちで、中学生にもおすすめなのは、橋爪大三郎『ふしぎな社会』(ちくま文庫、2021年)。こちらは家族や戦争、資本主義や正義といった現代社会のキートピックを、根元のほうから教えてくれます。
『17歳のための 世界と日本の見方』
松岡正剛, 2006, 春秋社
www.amazon.co.jp/dp/4393332652
◯『高校生のための現代思想エッセンス ちくま評論選 二訂版』(筑摩書房、2018年)
カテゴリー:思想・評論
文学に限らず、論理的な思考、抽象的な概念も自己表現の大切なツールとなります。「現代思想」と銘打ってはいますが、本書は自分を、他者を、現代を考えるための基本材料が贅沢に盛りこまれたオードブルのようなもの。設問や解答だけでなく、注や図説も充実しており、読者の理解を助けます。ここから、気になった書き手や分野の本を読み進めるのが良いでしょう。ちなみに、ユダヤ・キリスト教を含めたヨーロッパ思想に入門したいという方には、まず岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』(岩波ジュニア新書、2003年)をおすすめします。
日本の思想については、吉本隆明・梅原猛・中沢新一『日本人は思想したか』(新潮文庫、1998年)や鹿野政直『近代日本思想案内』(1999年、岩波文庫別冊)をどうぞ。
『高校生のための現代思想エッセンス ちくま評論選 二訂版』
2018, 筑摩書房
www.amazon.co.jp/dp/4480917330
◯ ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』(西永良成訳、河出書房新社、2008年/千野栄一訳、集英社文庫、1998年)
カテゴリー:小説・思想
私事で恐縮ですが、なにを隠そうこの小説、選者が人生の10年ほどを注ぎこんで研究している作家の代表作でございます。冷戦下に起きた民主化運動「プラハの春」とその瓦解を背景に、荒々しい政治の力に翻弄される4人の男女のラブストーリー。ただしこの小説のもっとも目立つ特徴は、やたらと物語に首をつっこむ「出たがり」な語り手、とつぜん辞書形式で考察が進む自由な構成でしょう。そう、本作を読むことは、登場人物たちとともに小説世界を感じるだけでなく、彼らと、そして彼らを見つめる作者=語り手とともに考えることでもあるのです。たとえば、次のように──「だが、本当に重さは恐ろしく、軽さは美しいのだろうか?」
『存在の耐えられない軽さ』
ミラン・クンデラ, 西永良成訳, 2008, 河出書房新社 / 千野栄一訳, 1998, 集英社文庫
www.amazon.co.jp/dp/4087603512
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