【第1回】あの人の子ども時代の習い事を知りたい!そこで伸びた「〇〇の力」とは? ー植松電機代表取締役 植松努さんに聞いた!ー

【第1回】あの人の子ども時代の習い事を知りたい!そこで伸びた「〇〇の力」とは? ー植松電機代表取締役 植松努さんに聞いた!ー


子どもの未来や将来の成功のために、「非認知能力」を育むことが大切だと言われています。偏差値やテストの点数、IQなどとは異なる、心や内面に関わる力を指し、創造性、自分を信じる自己効力、忍耐力、決断力、疑う力、コミュニケーション力、表現力、など、さまざまな力が含まれます。ただ、どのように伸ばしていったらいいか戸惑うことも多いのではないでしょうか。当企画では、幅広い業界で活躍するトップランナーたちが子ども時代にしていた習い事にフォーカスし、習い事を通じてどのような非認知能力が育まれたか、そしてそれが今にどう生きているかを伺っていきます。


 植松 努 (うえまつ つとむ) 
株式会社植松電機 代表取締役 株式会社カムイスペースワークス 代表取締役 NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター 理事
人の可能性を奪う「どうせ無理」という言葉を無くしたいと、北海道の町工場でロケットの実用化に向け挑戦し続け、また、企業・学校での講演やロケット教室を通し、夢を諦めない事の大切さを伝えている。
著書に『あきらめない練習―何をやっても続かない自分を変える』(大和書房/2017年)など。



植松電機代表取締役 植松努さんに聞いた!

山登り、紙飛行機づくり……「やりたくてやっていたこと」が今につながる


北海道赤平市。本業の植松電機の事業と並行し、北海道大学と共同で宇宙開発を行っているのが植松努さんだ。世界に3カ所しかない無重力実験施設のうちの1カ所は植松さんの会社にあり、ロケットも人工衛星もつくっている。コロナ禍以前には人口1万人の町の町工場に、年間1万人もの小中学生たちが見学に訪れ、自分がつくった時速200kmで高度100mまで飛んでいく小さなロケットに夢中になっている。



非認知能力は「教わるもの」ではない

習字、そろばん、スキー、ピアノ、バイオリン……。植松さんの習い事歴は、実に多彩。ところが、大半が長続きしなかったという。「幼少期のラジオ体操会場でみんなが体操をしている中で、ひとり離れて地面に絵を描いているような子どもだったからか、こうしろ、ああしろと言われるのが納得できなかったんです。それなら、自分で古い自転車を直して遠くまで出かけたり、山も地図やコンパスで調べながら自力で登ったりするほうが楽しかった。非認知能力は教えられて身につくものではありません。逆に、いろんな習い事に挑戦して失敗したからこそ、自分で工夫したり計画したりする主体性が自ずと備わったのでしょう」(植松さん、以下同)

なお、数ある習い事のうち、ピアノとバイオリンだけは比較的続き、中学校のときにはバンドを組もうとギターを練習したこともあったが、家の手伝い中に左手を機械に巻き込まれ、指を一部失ってしまった。一瞬にして楽器が弾けなくなってしまったが、「音楽は今でも大好き」と植松さんは微笑む。「日本人は一生懸命という言葉が好きで、スポーツでも何でも一つのことに打ち込むことが立派と言われがちだけれど、選択肢がひとつじゃなかったから、僕は立ち直れた。好きなことややりたいことはたくさんあったほうがいいですね」



紙飛行機づくりが僕の原点

ロケットとの出会いは3歳の頃、祖父と見たアポロ11号の月面着陸をきっかけに、やがて小学生で紙飛行機づくりに夢中になったこと。「僕自身は、宇宙開発は特別なものではなく、手段に過ぎないと考えています。おとなしくて聞き分けのよい子どもではなかったから、夢を語っては先生に嫌われて、よく言われていたのが『どうせ無理』という言葉です。だからこそ、子どもたちから夢や自信を奪う『どうせ無理』がない世界にしたい。そのためにみんなが無理だと思っている宇宙開発に挑戦しようと思ったのです」

数々の否定的な声を受けて、宇宙開発の夢をあきらめようとしたことは何度もある。でも、そのたびに紙飛行機づくりでクラスの友だちから「飛行機博士」と称号を付けられてうれしかったことなどを思い出し、「自分ならできる」「きっとうまくいく」という自己効力感を奮い立たせた。

宇宙開発も紙飛行機づくりの試行錯誤を思い出せば、何度もチャレンジできた。グライダーをつくるにはハサミを上手に使えないといけない。さらに、速く飛ばすためにはどう組み立てればいいだろうか――。宇宙開発でも、こうした子どもの頃のように、課題を認識し、情報収集し、自分のリソースは何かを見つめ直す繰り返し。「さまざまな非認知能力がないと、目標を達成することはできないと強く感じています。非認知能力を持たない人は、言われたことを言われたとおりにできても、新しいモノ、コトを生み出すことはできません」



「夢」は職業のもっと先にある

経営者として大切なことは、社会の課題解決と仲間を育てることの2つに尽きると植松さんは考えている。会社で働く人たちの能力の総和が課題解決につながる。植松さんは、ヒントは与えるが、具体的な方法はできるだけ指示しない。「こうしてみよう」、「こうしてダメだったから、次はああしてみよう」、「だったら、こうしてみよう」と、失敗する理由を考えて仮説を立てて対策を考えることができるよう、社員への日々の声がけも欠かさない。

「もちろん、製品開発時に試行錯誤する一方で、取引先との契約を履行できないといった失敗は決してしてはいけません。ただ、教育で失敗を許さないのは全く異なります。今の子どもたちが失敗を恐れるのは、大人のせい。テストの点数や偏差値、暗記力といった大人が評価すること以外は無意味であるという風潮がまん延しているから、失敗しないために、『何もしない』、『今できていることをやる』、『言われたとおりにする』の3パターンを駆使する」

「今の小中学生は、夢さえも進学先や職業から選べと言われています。周りがそんな大人ばかりだから、考える力が養われない。将来は限られた中から人と奪い合って選択肢からつかむものではないと気づくことができたとき、職業のもっと先にある夢を探すことができるのではないでしょうか」

子どもの頃から目の前に立ちはだかってきた「どうせ無理」のない世界を実現するために、自身も宇宙開発に奔走しつつ、子どもたちが自信を持って思い思いの夢を描けるように、講演、子どもたちの積極的な受け入れを通じてエールを送り続ける植松さん。その原点には、幼少期から挑戦と失敗、そして成功を繰り返しながら培ってきた力があった。