【第2回】あの人の子ども時代の習い事を知りたい!そこで伸びた「〇〇の力」とは? ー任天堂「Wii」元企画開発者 玉樹真一郎さんに聞いた! ー

【第2回】あの人の子ども時代の習い事を知りたい!そこで伸びた「〇〇の力」とは? ー任天堂「Wii」元企画開発者 玉樹真一郎さんに聞いた! ー


子どもの未来や将来の成功のために、「非認知能力」を育むことが大切だと言われています。偏差値やテストの点数、IQなどとは異なる、心や内面に関わる力を指し、創造性、自分を信じる自己効力、忍耐力、決断力、疑う力、コミュニケーション力、表現力、など、さまざまな力が含まれます。ただ、どのように伸ばしていったらいいか戸惑うことも多いのではないでしょうか。当企画では、幅広い業界で活躍するトップランナーたちが子ども時代にしていた習い事にフォーカスし、習い事を通じてどのような非認知能力が育まれたか、そしてそれが今にどう生きているかを伺っていきます。


玉樹 真一郎 (たまき しんいちろう) 
 1977年生まれ。東京工業大学・北陸先端科学技術大学院大学卒。
任天堂に就職後、全世界で1億台を売り上げた「Wii」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わり「Wiiのエバンジェリスト(伝道師)」「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」と呼ばれる。 2010年任天堂を退社。青森県八戸市にUターンして独立・起業、「わかる事務所」を設立。 2011年5月より特定非営利活動法人プラットフォームあおもりフェロー。2014年4月より八戸学院大学・地域経営学部特任教授。2019年4月より八戸学院大学・学長特別補佐。2017年4月より三沢市まちづくりアドバイザー。著書に『コンセプトのつくりかた』(ダイヤモンド社)がある。
 公式ホームページ http://wakaru-office.com



任天堂「Wii」元企画開発者 玉樹真一郎さんに聞いた!

習字で養われた「記憶力」が、イノベーションの源に


世界3億人が夢中になった、任天堂「Wii」の元企画開発者は小中学生の頃にどんな習い事をしてきたのか。

「小学4年生から中学3年生まで習った『習字』が大きな糧になっています」と答えてくれたのは、家族で楽しめるゲーム機として新たな価値観を浸透させた「Wii」の企画・開発に関わり、「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」とも呼ばれる玉樹真一郎さん。日本を代表するゲーム・プランナーの原点が、子どもたちにとって、もっともオーソドックスな習い事の一つである「習字」にあったとは、コレいかに――



集中力も、予想力もアップ

近所に習字教室があったから、何となく通い始めたという玉樹さん。きれいな字を書けるようにすることが当初の目的だったのだが、集中力、仮定する力、美的感覚、時間の流れに対する理解力――玉樹さんが習字を通して手に入れた非認知能力を挙げていくと、きりがないほど。

「机に向かい、スーッと心を落ち着かせて、筆をとっていく。まず、集中力が付きましたし、自分の心を観察することもできるようになりました。墨の量考え、このくらいの力を入れて書けば、線の太さや勢いをこんな風に表現できるだろうという予想力も養われました。当然、美的感覚も鋭くなりますよね。これらの非認知能力は、日常にあふれているインタラクションデザインに大切な力なんです」

インタラクションデザインとは相互作用の設計という意味で、ウェブサイトやアプリケーションでもUX(ユーザー・エクスペリエンス)を高めるために重要視されている手法だ。たとえば、説明しなくてもどのボタンを押せばいいか直感できる、その操作をすることで何が起こるのかを予測できるようにする、など。いまや当たり前となったデジタル環境の中でユーザに心地よく過ごしてもらうために必要な考え方だ。

「みなさんもご存じのスーパーマリオは、ギネスブックに載るほど多くの人に愛されたゲームですが、もっとも大切なルールは、マリオが『右に行くこと』です。右に行くのかなと仮説を立てて、不安の中で実際に試してみて、仮説が当たって喜ぶ。ゲーム開発会社の公式見解ではなく、あくまで僕自身の見解ですが、ゲームが面白いのはわずか数秒で生まれるこうした一連の心の動きにあると思っています。『書道は時間の芸術』と聞いてなるほどと思ったことがあるのですが、でき上がった文字の形を見るのではなく、どう書かれたのか、書かれた時の様子を想起して何かを感じとることが大事な気がします。心を動かす体験をつくることができるようになったのは、習字に向き合うことによって得られた時間軸のとらえ方、予想力のおかげですね」



記憶のストックが心動かす体験をつくる

そして、玉樹さんが習字から得たもっとも大きな糧は、プランナーとしての創造力の土台となる記憶力が養われたことだという。

「習字と記憶力ってなんの関係があるんだと思われるかもしれませんが、記憶力はとても大切です。半紙のとなりに先生のお手本を置いていたとしても、まさに書こうとする時は自分の筆先を見なければならないので、手本を記憶しておかなければいけません。同様に、先生の筆の角度や勢いも、先生が手本を書く時の様子を目に焼き付けておかなければいけません」

玉樹さんが深く関わったゲーム機「Wii」の開発でも不可欠だった、新たな価値を生み出していく「創造力」と、記憶力。これらは一見すると真逆の能力に思えるが、玉樹さんは「記憶する力がなければ、なにも生み出すことはできません」と断言する。

「昨今、詰め込み教育からの脱却が叫ばれていますが、僕自身は詰め込むことも必要だと思っています。守破離の『守』がなければ『破』も『離』もできないのと同じで、記憶のストックがないと、アドリブをきかせたり、予想したりすることすらできないからです。たとえ予想が外れたとしても、予想ができているからこそ大きな驚きが生まれて、心が動く。ついやってしまうゲームは、予想があたってうれしい体験と、予想が外れて驚く体験が数珠つなぎに織り込まれています。いわばゲームの面白さの源泉は「予想すること」にあって、さらにその源泉は「記憶すること」なのではないかと考えています」

これまでのインプットがあったからこそ、予想する力が付き、ひらめきや驚きを起こすことができた。成長過程での習字で得た記憶する習慣が、創造する力を育む土壌となったのだ。

現在は生まれ育った青森県八戸市にUターンし、コンサルティングやアプリケーション開発を手掛けている玉樹さん。習字を通し、たくさんの力を養ってくれた故郷で、今なお人の心を動かす体験をつくり続けている。