【第3回】あの人の子ども時代の習い事を知りたい!そこで伸びた「〇〇の力」とは? ーラグビー日本代表元主将 廣瀬俊朗さんに聞いた!ー
2022.1.4
子どもの未来や将来の成功のために、「非認知能力」を育むことが大切だと言われています。偏差値やテストの点数、IQなどとは異なる、心や内面に関わる力を指し、創造性、自分を信じる自己効力、忍耐力、決断力、疑う力、コミュニケーション力、表現力、など、さまざまな力が含まれます。ただ、どのように伸ばしていったらいいか戸惑うことも多いのではないでしょうか。当企画では、幅広い業界で活躍するトップランナーたちが子ども時代にしていた習い事にフォーカスし、習い事を通じてどのような非認知能力が育まれたか、そしてそれが今にどう生きているかを伺っていきます。
廣瀬 俊朗 (ひろせ としあき)
株式会社HiRAKU 代表取締役。1981年生まれ。元ラグビー日本代表キャプテン。
現役引退後は、「ビジネス・ブレークスルー大学大学院」にて経営管理修士(MBA)を取得。ラグビーW杯2019では公式アンバサダーとして活動。試合解説をはじめ、TBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演など、幅広い活動で大会を盛り上げた。 現在は、株式会社HiRAKU代表取締役として、ラグビーに限定せずスポーツの普及、教育、食、健康に重点をおいた様々なプロジェクトに取り組んでいる。
2020年10月より日本テレビ系ニュース番組『news zero』に木曜パートナーとして出演中。
一般社団法人スポーツを止めるな共同代表理事 一般社団法人アポロプロジェクト専務理事 特定非営利活動法人One Rugby代表理事 特定非営利活動法人 Doooooooo理事
著書『なんのために勝つのか。ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』(東洋館出版社)、『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)。
ラグビー日本代表元主将 廣瀬俊朗さんに聞いた!
「勝ちにこだわる以上に大切なこと」を、ラグビーが教えてくれた
ただ競技スキルや身体能力に優れるだけじゃない。知性もリーダーシップも兼ね備えたアスリートとして知られるラグビー日本代表元主将・廣瀬俊朗さん。両親の勧めで、5歳から始めたラグビーは、廣瀬さんに何をもたらしたのだろうか。
「最初はただボールを持って走り回るのが楽しくて、いつも仲間と遊んでいました。生まれ育った大阪はラグビーが盛んな地域で勝ち負けにこだわるスクールが少なくありませんでしたが、僕が選んだのは一番楽しそうだった吹田のスクール。ルールを守る、相手チームをリスペクトするといった基本を教えてもらった。そして何より、仲間と一緒にラグビーをすることがとにかく楽しかった」(廣瀬さん、以下同)。
ラグビーのほか、ピアノの先生をしていた母親の影響で、バイオリンを習ったり、よくコンサートに連れて行ってもらったりした。「音楽を通じて世界が広がったことは良かったですね。そして、たとえばコンサートの感想を言っても、母は僕の意見を否定せず、きちんと受け入れてくれた。これによって自尊心が育まれ、自信が持てるようになったことは、僕の考え方の軸やラグビーのプレースタイルに大きく影響しています」
ラグビーと勉強の両立で大きく成長
ラグビーも勉強も、親に「こうしなさい」と言われた記憶はない。特に算数・数学のようなロジックを考える勉強が好きだった。そして、ダラダラしそうになったらランニングなどをしてリフレッシュした。「ラグビーと勉強の両方をやることが、かえって効率が良かったのかもしれません。自身を大きく成長させる糧にもなりました」と廣瀬さん。ラグビーに夢中になる一方で、地元で一番の進学校である大阪府立北野高等学校を目指し、勉強時間の配分をはじめとして目の前の課題をどう解決していくか試行錯誤した。その過程で、点数や偏差値だけでは測れない思考力、判断力、表現力が育まれていった。
中学、高校、大学、社会人、そして日本代表の主将を務め、優れたキャプテンシーで知られる廣瀬さんだが、「幼いころから、人前で話すこと、目立つことは特に好きではなかったし、自分がなぜキャプテンに選ばれたかは正直分からない」と話す。ただ、その立場を与えられたときから自分自身が大きく変わったのは確かだという。
「たくさんあるポジションそれぞれの戦術を考えたり、相手チームの弱点を探したり、みんながチームを好きになる仕掛けを考えたり。人・組織について悩み、格闘し、挑戦するなかで、やっていることと言っていることを一致させること、周囲の仲間を信じること、目的を大切にすることの3つを学びました。与えられた環境のなかで考え続け工夫してきたことが、ラグビーをするうえでも人生でも役に立ったと実感しています」
自分の「内面」に目を向け豊かな人生を
現在は、ラグビーに限定せず、スポーツの普及、次世代のリーダーを育てることに力を注いでいる廣瀬さんだが、いまだ成果一辺倒になりがちな日本の風潮には強い危機感を抱いている。「子どもたちには、まず考える習慣を身に付けてほしい。トライして、リフレクション(内省)して、再びトライする経験をたくさん積んでほしい」
この考える力は、廣瀬さん自身が挫折に直面したときにも大きな意味を持った。2014年、日本代表に選ばれるも「スタメンを保証できない選手にキャプテンは任せられない」との理由で主将を解任された。「僕はなんでここにいるんだろうと、心にぽっかり穴が開きましたが、試合に出ること以外の意味、チームのために自分に何ができるかを考えることによって、立ち直って再び前を向くことができました。成功だけではない道に目が向けられるようになったのも、この経験が大きく影響しています」
私たちが生きるうえで、勝つことはもちろん重要だ。廣瀬さん自身も、「勝つ」ことで日本のラグビーファンを幸せにし、新しい歴史を築いてきた。それでも、廣瀬さんは「成果は重要だが、誰かと比較するだけのではなく、自分の内面に目を向け、外と内とのバランスをとってほしい」と力を込める。
もちろん、すべての子どもたちが、親やコーチに愛され、キャプテンにも抜擢された廣瀬さんのように環境に恵まれているわけではない。「少なくとも、親が『今日のテスト何点だった?』ではなく、『今日はどんな一日だった?どう感じた?』と聞くだけでも、子どもは自分の感情に目を向けることができるはず。そこから豊かな人生が始まると僕は信じています」