【第4回】あの人の子ども時代の習い事を知りたい!そこで伸びた「〇〇の力」とは? ー音楽クリエーターのヒャダインさんに聞いた!ー
2022.2.7
子どもの未来や将来の成功のために、「非認知能力」を育むことが大切だと言われています。偏差値やテストの点数、IQなどとは異なる、心や内面に関わる力を指し、創造性、自分を信じる自己効力、忍耐力、決断力、疑う力、コミュニケーション力、表現力、など、さまざまな力が含まれます。ただ、どのように伸ばしていったらいいか戸惑うことも多いのではないでしょうか。当企画では、幅広い業界で活躍するトップランナーたちが子ども時代にしていた習い事にフォーカスし、習い事を通じてどのような非認知能力が育まれたか、そしてそれが今にどう生きているかを伺っていきます。
ヒャダイン
音楽クリエイター
本名:前山田 健一。1980年大阪府生まれ。
3歳の時にピアノを始め、音楽キャリアをスタート。作詞・作曲・編曲を独学で身につけ、
京都大学を卒業後、2007年に本格的な音楽活動を開始。動画投稿サイトへ匿名のヒャダインとしてアップした楽曲が話題になる。
一方、本名での作家活動でも提供曲が2作連続でオリコンチャート1位を獲得するなどを経て2010年にヒャダイン=前山田健一である事を公表。
作家として、ももいろクローバーZ、SMAP、King&Princeなどアイドルから、ゆず、椎名林檎、ゴスペラーズ、郷ひろみなどのJ-POP、アニメソング、ゲーム音楽など多方面への楽曲提供を精力的に行い、自身もタレントとして活動する。
音楽クリエーターのヒャダインさんに聞いた!
音楽家・ヒャダインの原点は、親が設けてくれた“遊びの時間”
動画投稿サイトへ匿名でアップした楽曲が話題になり、いまや、本名の前山田健一としてアイドル、JPOP、ゲーム音楽までの幅広い楽曲提供を手がけるのはもとより、歌手やタレントとしても活躍するヒャダインさん。
とにかく楽しい音楽を提供し続け、テレビやラジオでMCを担当、さらに京都大学出身という輝かしい経歴の一方で、自身の中・高校生時代は“陰キャ”だったとも公言している。そんな彼のそばにいつもあったのがピアノ、そして音楽だ。多くの人が強い共感を覚えるエンターテイメントをつくる能力は、どのように育まれたのか。
運動は苦手、ピアノが得意な男の子
ヒャダインさんがピアノを習い始めたのは3歳のとき。両親はサッカーや体操をはじめ、さまざまな習い事にチャレンジさせてくれたが、運動系の能力は、本人いわく、致命的。でも、音を奏でるのが大好きで、ピアノは、先に習っていた姉をしのぐほど、めきめき上達していった。
「運動はとにかくだめ。当時は、今でいう、ジェンダー的な感覚で男の子=スポーツだったから、ピアノを弾くのにも違和感があったし、運動ができないのが大のコンプレックスだった。でも、僕はピアノが楽しくて仕方なくて、先生はスパルタだったけれど、どんどん上手く弾けるようになるのが自慢。いろんな感情を抜きにしても、子ども社会のなかで、ピアノが自分のアイデンティティを保つことにつながったのは間違いありません」(ヒャダインさん、以下同)
幼少期のヒャダインさんに、学業以外で自分を信じる心、効力感をもたらしてくれたピアノ。影響を受けたのは、ピアノ教室の先生による指導だけではない。ポップだけれど、どこか切なくて心に寄り添う言葉、サウンドを生み出しているヒャダインさんの原点は、両親が設けてくれた“遊びの時間”にある。
「親は、レッスンの後の1時間を、“遊びの時間”として、何でも好きに弾いていいという機会を設けてくれました。そこで、お小遣いで楽譜を買って好きに弾いたり、耳コピで歌謡曲やゲーム音楽を再現したり。習い事は基本的に受動的になりがちですよね。もちろん、スキルを学ぶうえでそこから得ることは少なくありませんが、今の僕の歌詞、曲を生み出す源としては、自分の好奇心から素直に音楽と触れ合った、遊びの時間の影響も大きかったと思います」
逃げ道の作り方を見つけて
勉強は、親が買ってくれたドリルを解きまくり、次をせがむほど大好き。地元で有数の中高一貫校から京都大学に進学した。「ピアノを好きに弾く一方で、勉強は学校から強制されることだから、僕にとっては継続力が養われた。文武両道、二足の草鞋を履くなどいろんなワードがありますが、習い事や趣味の存在は、学力の精度を上げる点でも理にかなっていると思います」
だが、中学、高校時代は、クラスメイトたちに圧倒され、周りにもなじめない日々。中学校で入部した吹奏楽部の数少ないメンバーとバンドを組んで、小編成の曲を考えたり、帰宅後にシンセサイザーで「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」などのゲーム音楽をアレンジしたりするのは楽しかった。その一方で、文化祭や体育祭といった、みんなで何かしなければいけない、いわゆるヒエラルキーの“一軍”がリードして仲間で盛り上がる時間は、仲間はずれにされるのが怖くて地獄に等しかったという。
「いまでこそ、当時の僕には楽しむ余裕がなかったのかなとも思いますが、文化祭も体育祭も大人が勝手に決めた青春の通過儀礼です。もちろん、創造力とかコミュニケーション力とか、教育が用意したこうした機会で得られる非認知能力を否定はしませんが、本当に苦しかったら、そこから抜け出して、自分のやりたいことをすればいい。僕にはいつもそばに音楽がありましたし、そんな逃げ道の作り方を見つけてほしいです」
比較して絶望するな、「そんなもんだぜ」
動画投稿サイトに、聴いた人がすぐに分かる歌詞や曲を試行錯誤しながら投稿することで人気に火がついたヒャダインさん。子どもたちに対し、無数にあるエンターテイメントとの付き合い方で大切にしてほしいと考えるのは、評価にとらわれ過ぎず、自己表現の場として活用することだ。
「いまは閲覧数、フォロワー数、いいねの数など、とにかく数字で比較ができやすい時代です。しかも、自分は絵が上手いと思っていても、Twitterやインスタグラムをのぞいたら同じ年の子がすごい作品を投稿していて絶望しちゃう。他人からの評価は成長のガソリンにもなるけれど、大概は絶望しかない。そんな天才なんていないんだから、隣の芝生が青いのは当たり前で、僕が言いたいのは『そんなもんだぜ』ということです。重要なのは、過去の自分と比べたときに一歩でも前に進んでいる部分があると、気付ける力を養うこと。つまり、自己効力感を養う、ということです。」
ピアノを通して得られた小さな成功体験の積み重ねが、ヒャダインさんのスイッチを入れ、その後の活動の場を大きく広げることにつながった。得られたのはスキルだけではない。子どものヒャダインさんの心も守る存在だったのだ。