いざ学問選択! 【5.技術を生み出す】

いざ学問選択! 【5.技術を生み出す】

【技術を生み出す ―人類に夢がある限り技術革新は終わらない―】

次々に登場する新たな科学技術。身の回りを見渡せば、技術の恩恵を受けているものがあふれている。自然界の原理や知見を土台に、実生活に役立つ有用な技術の開発をめざす学問が「工学」だ。
「工学」というと、「モノづくり」を思い浮かべやすいが、それ以外にも土木・建築、情報通信の技術研究や、近年では省エネ技術の開発、医療と連携した技術開発なども盛んだ。
このように工学が対象とする領域は広範囲にわたっており、学科名だけでは学ぶ内容がわかりにくい。そこで参考までに、好きな科目から向いている学問について考えてみよう。(1)物理なら機械工学、電気・電子工学、通信工学、材料工学、(2)化学なら材料工学、応用化学、生物工学がオススメだ。(3)数学なら情報工学を調べてみよう。
 また、興味のあるものが航空機やロケット開発なら航空・宇宙工学、工業製品などのデザインならデザイン工学、建物や都市なら土木・環境工学や建築学を見てみよう。



【機械工学】

何を学ぶの?

●産業の基盤を支える機械工学

 機械工学とは、機械が動く仕組みを学び、あらゆるテクノロジーを統合・システム化して、新たな機械や装置の設計・製作を行う学問。
機械工学は大きく4つの分野に分かれる。「材料系」は機械に使う材料の特性や強度の改良、新素材の開発が主たる研究となる。「熱・流体系」では車やロケットのエンジンなど、熱エネルギーを動力に変換する技術について学ぶ。「設計・製作系」では機械や部品の設計・製作・加工のノウハウを研究する。「計測・制御系」では機械をシステムとしてとらえ、測定・制御・運用する技術を扱う。
大学では、1・2年次に機械工学の基礎となる4力学(材料力学、流体力学、熱力学、機械力学)を重点的に学ぶ。3年次以降はより高度で専門的な実験や演習を通して研究を進めていく。

大学選び ココがポイント

 機械系学科のなかで機械工学全般を学ぶことができるのは「機械工学科」で、それを土台にしてロボットなどの最先端技術を生かした研究・開発が行われている。近年では、環境や資源問題に配慮したエネルギーの有効活用を研究する「エネルギー科学科」や機械の知能化技術に焦点を当てた「機械知能工学科」、機械制御システムを統合・開発・設計する「機械システム工学科」など、他の工学諸分野との融合を図る学科も多い。
実験や演習が多いので、大学の施設や設備の充実度もチェックしておこう。また、大学院への進学も見据え、設置状況や進学状況なども調べておくとよい。

コラム ~ロボットと人間が共存する社会を~

 あるテーマパークにはロボットが働くホテルがある。「世界初のロボットホテル」としてギネス世界記録認定を受けた。フロントでは多言語対応のロボットたちがチェックイン・チェックアウトの手続きを行い、クロークではロボットアームが手荷物を預かる。
 ロボットはメカトロニクスの代表選手だ。メカトロニクス(Mechatronics)とは機械を電子回路によって制御することを目的とした、機械工学(Mechanics)と電子工学(Electronics)の融合分野。自動車の組み立ての自動化等に役立つ産業ロボットとして、1960年代後半に実用化され発達してきた。エアコンや洗濯機、プリンタなどの身近なものにも利用されているが、近年注目されているのは二足歩行の人型ロボットの開発だ。人間のように円滑な動作ができるよう機械を制御する技術が急速に進歩している。災害現場などの極限状況で作業を行うロボットや人間の血管に入って手術を行う超小型ロボットなど、人間にはまねできない能力を備えたロボットの研究・開発、実用化も進んでいる。ロボットと人間が共存する社会が訪れるのもそう遠くないかもしれない。



【電気・電子工学】

何を学ぶの?

●電子の有効利用を考える

 電気・電子工学は、電子のとらえ方によって電気工学と電子工学に分けられる。
電気工学では、電子の流れ=電流を「エネルギー」としてとらえ、効率の良い発電や電力輸送、電気機器の制御や応用などを研究する。リニアモーターカーの超電導やデジタル映像処理技術など、新技術のカギを握る研究も多い。近年では地球環境問題の観点から、太陽光発電や燃料電池などの環境負荷の低いエネルギー源や利用技術の開発が進められている。
一方、電子工学はエレクトロニクスともいい、電子を「情報伝達の道具」としてとらえ、電子デバイスを用いた情報処理や制御にかかわる技術について学ぶ。コンピュータのソフト・ハード面の開発、半導体レーザーや光ファイバーを用いたネットワーク技術、発光ダイオード(LED)など電子の性質を応用するさまざまな研究を行っており、現代の先端技術の基盤を支えている。

大学選び ココがポイント

 電気・電子工学はそれぞれが専門性の高い分野であるため、学科・コース・専攻として独立させている大学もある。
また、一つの大学の中に電気・電子系の学科が機械や情報系との学際領域も含めて複数ある場合も多く、それぞれのカリキュラムや研究室を比較・検討することが大切だ。



【情報・通信工学】

何を学ぶの?

●情報化社会を支える技術

 情報・通信工学は、情報化社会の基盤を支える技術について研究する学問。人工知能(AI)やIoT、バーチャル・リアリティ(VR)など、多彩な情報技術が開発されており、今後も発展が見込まれる分野だ。
情報工学では、ハードウェアの設計からプログラム理論や数値解析などのソフトウェアまで、幅広く研究する。
一方、情報を伝達する技術を研究するのが通信工学だ。電話線などの有線技術だけでなく、光ファイバーや無線技術との連係によって、情報をより速く効率的に、より安全にやり取りするための研究が続けられている。
大学では、1・2年次にコンピュータの基本構造、演算処理や回路の設計、プログラミング言語などを学ぶ。3年次以降はハード系とソフト系に分かれて、それぞれの専門分野の研究を進めていくことが多い。

大学選び ココがポイント

 情報・通信工学は理工系の情報工・情報科学・情報通信工・電気電子工といった学科で学ぶことができる。また最近は、人文・社会科学系の学部にも「情報」の名がつく学際的な学科が設置され、ソフトウェアを中心とした情報工学だけでなく、情報技術と人間社会の関係を扱う「社会情報学」を学べる大学もある。まずは、自分が情報分野において何を学びたいのか、どのような視点から取り組みたいのかを考えて志望校を選択しよう。



【材料工学】

何を学ぶの?

●優れた機能をもつ新素材を開発

 材料工学は、材料の構造とその機能を工学的に解明し、モノづくりに適した材料を開発する学問。
扱う材料には、鉄やアルミニウム、チタンなどの「金属材料」、液晶や有機ELなどの「有機材料」、陶磁器やガラスなどの「無機材料」、それらを組み合わせた「複合材料」などがある。形状記憶合金やクリーンエネルギーである水素を安全に貯蔵する水素吸蔵合金などのほか、ナノテクノロジーを基盤として材料の開発・機能強化へ向けた研究が進められている。
 大学では材料工学の基礎となる物理、化学、数学とともに、金属や有機・無機材料についての基礎知識を学ぶ。その後、専攻に応じてセラミックス材料学や社会インフラ材料学、生体材料化学、半導体材料工学などを学ぶ。演習や実験、工場見学などの実践的な科目も多く、実験や分析に必要となる情報処理、プログラミング、シミュレーションに関する授業も重視される。

大学選び ココがポイント

 工学部、理工学部の材料工や物質科学、マテリアル工といった学科で学べるほか、大学によっては物理工学科、機械工学科などの一部コースで材料工学の分野を学べる場合もあるので、よく調べてみよう。
 また、先端材料理工学科や高分子・有機材料工学科のように高機能・新機能をもつ材料の開発に重点を置く学科もあり、企業と連携して研究を進めている研究室も少なくない。



【応用化学】

何を学ぶの?

●産業界を革新する化学技術

 応用化学は、化学の理論や知識を活用して生活に役立つ新しい物質を研究・開発する学問。医療や農業、食品、エレクトロニクスなど幅広い分野にわたる実践的な研究が行われている。
 応用化学のテーマの一つは新素材の開発で、高分子材料、生体材料、セラミックスなどを扱う。ノーベル賞を受賞した導電性ポリマーやリチウムイオン電池、青色発光ダイオードはこの分野で開発された材料が使われている。こうして実用化された素材はスマートフォンから自動車まで日常生活のあらゆる場面で活用されているのだ。最近では、環境に配慮した技術も重要な研究テーマで、有害物質の分解作用をもつセラミックス系光触媒や希少金属の枯渇を防ぐための代替触媒、分解されて土にかえるプラスチックなどが開発されている。
 大学では、まず物理化学や有機・無機化学、分析化学などあらゆる分野の基礎を学ぶ。その後、高分子化学、触媒化学、反応速度論などの講義や演習、実験を行うことでより深く追究したい分野に取り組んでいく。

大学選び ココがポイント

 応用化学は、工学部や理工学部に設置されている応用化学科、工業化学科、化学システム工学科などで学ぶことができる。近年は自然環境とのかかわりを意識した環境応用化学科、循環環境工学科、あるいは「ナノテクノロジー」に着目したナノサイエンス学科も設置されている。



【生物工学】

何を学ぶの?

●生物の機能を工学技術に応用

 生物工学は、バイオテクノロジーとも呼ばれ、生物の優れた機能を生かして産業や医療への応用をめざす学問だ。
 大学では「遺伝子工学」「細胞工学」といった技術を中心に研究が進められる。遺伝子工学では遺伝子の構造分析や遺伝子組換え技術などを、細胞工学では細胞を用いて有用な細胞や物質の生産技術を学ぶ。これらの技術と他の工学的技術を組み合わせて実用的なバイオ技術を開発していくのだ。人工組織・臓器による再生医療や食品・化粧品・医薬品の開発、生物資源(バイオマス)を利用した環境問題の解決など、幅広い分野での応用が期待されている。

大学選び ココがポイント

 生物工学は、工学部や理工学部にある生物工、生命工、生命科学などの学科で学べる。近年では理学部生物学科や農学部の応用生命系学科をはじめ、生物学の垣根を越えて物理学、化学、医学や工学、コンピュータサイエンス、生命倫理学などと研究の融合が進んでいるため、工学系に限定せずに自分の興味・関心に合った大学を探すとよいだろう。



【航空・宇宙工学】

何を学ぶの?

●最先端技術を結集した総合工学

 航空・宇宙工学は、航空機やロケット、人工衛星や宇宙ステーションなどを研究・開発する学問だ。その設計・製造・運用の理論を学ぶため、物理学や機械工学、材料工学、情報・通信工学などを結集した総合工学といえる。
 航空・宇宙工学は、空気抵抗や浮力を研究する流体力学、機体の材料や構造・設計に関する材料・構造力学、飛行に必要なエンジンを研究する推進工学、機体の操縦性能や飛行の安定性を追求する航空・制御工学の大きく4つに分かれる。これらの分野を軸に、学ぶ内容は広範囲にわたる。進歩が著しい分野だけに、最先端の技術にも触れることができる。
大学ではまず基本となる数学や物理を勉強し、専門課程になると宇宙や航空に直接関連した科目を学ぶ。華やかに見えるこの分野だが、実は地道な研究の連続。コツコツと努力を積み重ねることが必要な分野なのだ。

大学選び ココがポイント

 航空・宇宙工学系学科をもつ大学は数が少ないこともあり、かなりの難関だ。物理や化学などの高度な知識が必要なうえ、海外の技術者との共同研究も盛んなので語学力も求められる。「航空」「宇宙」という名称が含まれない機械系や情報・通信工学系、材料系学科でも飛行機や宇宙を対象として研究している大学もあるため、どの大学でどのような研究に取り組めるかをしっかりと確認しておこう。



【デザイン工学】

何を学ぶの?

●人にやさしい製品をめざして

 デザイン工学は、工業製品のデザインと機能性を追究する学問。現在の工業製品には、性能の向上が求められる一方、デザインの重要性も問われている。ただ斬新な形というだけではなく、「ユニバーサルデザイン」という言葉で表されるように、使う人の目線でより使いやすく安全な形を研究・創造する。最近では、環境問題に配慮した材料や製品が開発されており、これに応えたデザインも求められている。
 工業製品と人間のかかわりを追究するため、生活や社会・経済とも深くかかわる。大学では、デザイン造形や人間工学、デザイン心理学、マーケティング論など、他の工学系学科とは異なる講義も開講されている。

大学選び ココがポイント

 デザイン工学は、工学部や芸術工学部、芸術系学部のプロダクトデザイン学科などで学べる。ただ、設置されている大学数は少ないうえ、学部によって工学面重視かデザイン面重視かが分かれるので注意しよう。



【土木・環境工学】

何を学ぶの?

●市民の暮らしのための工学

 土木工学は、道路や橋、トンネル、上下水道、ダムなどの社会基盤を対象に、計画・設計・施工・維持・管理の技術を研究する学問。とくに近年は、東日本大震災や相次ぐ台風被害などを受けて防災・減災への意識が高まり、維持管理の重要性が見直されている。一方、環境工学は、土木工学の視点から自然環境と共生しながら持続可能な社会の実現をめざす学問だ。
 大学では、橋などの維持管理や耐震構造などを学ぶ「構造系」、コンクリートや材料の特性を学ぶ「材料系」、土や地盤を分析する「地盤系」、川や海などの水流を扱う「水工系」、土地利用や交通計画を行う「計画・交通系」、環境にやさしい暮らしを考える「環境系」などの基礎を学修したうえで、自分の興味に沿った専門領域を詳しく学んでいく。設計演習や土木製図実習、測量学実習、構造力学演習など演習・実習が多いのも特徴の一つだ。

大学選び ココがポイント

 土木・環境工学は工学部や理工学部にある土木工学科のほか、「環境」「社会」「都市」を組み合わせた名称の学科で学ぶことができる。なかには、都市計画や都市環境学などのテーマに重点を置いた都市工学科や都市システム工学科、海を研究対象とする海洋建築工学科など、特定の分野に的を絞った学科もある。このように研究対象は幅広く、大学により得意な分野が異なるので、大学案内などで比較しておくことが大切だ。

コラム ~より大きな視点で「都市計画学」

 近年、大都市を中心に地域全体の景観を考えながら再開発が行われ、大規模な住宅・商業施設が登場している。
 このような街づくりを考えるのが都市計画学だ。都市計画学では、多くの人々が便利かつ安全で快適に暮らせる街づくりを実現するための技術や手法を体系的に学ぶことができる。土木・環境工学のみならず、建築学や造園学、社会工学、地理学、経済学など、多様な学問とかかわる学際的な科学なのだ。
 情報化や高齢化など、人々を取り巻く環境も変化し、時代の変化に応じた街づくりが求められているため、今後も都市計画学は重要な役割を担っていくことだろう。



【建築学】

何を学ぶの?

●科学と芸術の二面性 建築学

 建築学は、人々が集い、生活するための建物について、構造と設計・建築技術を学ぶ学問だ。単に「強い」建物をつくるだけでなく、「機能性」と「美しさ」も追究し、安全で暮らしやすい建築物を創造していく。
 建築学は大きく3つの分野に分かれる。「構造・材料系」では建物が倒れない仕組みやその構法を研究する。「環境・設備系」では照明や空調、給排水、音響などを扱う。「計画・設計系」では建物の設計方法とあわせて建築の歴史とデザインについても学ぶことができる。最近は、バリアフリー住宅やエコハウスなど、地球と人にやさしい住空間づくりをめざす研究が進んでいる。
 大学では実験や演習に重点を置く大学が多く、なかでも設計製図は中心的な演習科目。10人いれば10通りの設計案が生まれる、そんなユニークさも魅力の一つだろう。また、設計関係ではCAD(コンピュータ支援設計)などコンピュータ技術を学ぶ実習・演習も用意されている。

大学選び ココがポイント

 工学部や理工学部、芸術系学部に設置されている建築学科で学ぶことが可能だ。大学によって専門分野が異なるので、自分の興味にあわせて大学を選ぼう。大学院への進学率も高いので、大学院設置の有無やカリキュラムなども調べておこう。

講義紹介 ―耐震工学―

 地震大国・日本で暮らすうえで、地震に強い建築物づくりは避けては通れない。そこで、この講義では、建築物の耐震設計における技術課題を解決するための力を養成することを目標として、必要となる基礎知識を学んでいく。まずは阪神・淡路大震災や東日本大震災など、過去の地震被害を通して、被害を受けやすい建物や地盤の特徴を理解する。その後、地震に関するメカニズムや振動理論について学びながら、耐震設計の基本的な考え方を身につけていく。大学に併設された「減災連携研究センター(減災館)」の見学もあるため、五感を使って理解を深めることも可能だ。(名古屋大工学部環境土木・建築学科)



© 河合塾 全国進学情報センター 『2021 大学受験入門誌 栄冠めざして Junior』 2021年


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