いざ学問選択! 【6.食と環境を守る】

いざ学問選択! 【6.食と環境を守る】

【食と環境を守る ―食の安定供給と環境保護の両立をめざして―】

私たちが毎日食べている食料はどのように生産され、どんな過程を経て私たちの食卓に届くのか。また、世界ではどんな環境問題や食料資源をめぐる問題が起きているのか。こうした食料や環境にかかわることを扱うのが、農学・環境学だ。
SDGsという言葉がある。持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)の略で、2015年に国連サミットで採択された2030年までに達成すべき17の目標のことだ。その一つである「飢餓をゼロに」を達成するためには、食料生産システムの確立、生産技術の研究などこの分野の貢献が欠かせない。
近年、農学系学部では学科再編が進み、「農」だけではなく生物、生命、資源、環境などの言葉を組み合わせた名称へ変わり、学科名だけでは何を学べるのか分かりづらくなっている。興味のあるテーマが食料生産なら「農学(生物生産系)」、バイオテクノロジーなら「農学(応用生命系)」、農業を支える技術環境や森林資源なら「農学(環境系)」、環境との共生なら「環境学」、動物の医療なら「獣医学」を見てみよう。



【農学(生物生産系)】

何を学ぶの?

●食料生産にかかわる研究を行う

 農学(生物生産系)は、私たちの食料となる植物や動物を生産する技術を学ぶ分野だ。植物に関する研究が多く、作物の遺伝的な品種改良を行う育種学、農作物の品質や生産性を向上させる作物学・園芸学、作物の病気を扱う病理学、土の生成や性質を学ぶ土壌学などがある。虫の生態・生理を調査し防除に役立てる昆虫学・害虫学を学ぶこともできる。
 ウシやニワトリといった家畜動物の生態や生産について研究するのは酪農・畜産学だ。飼料の開発や繁殖・育成方法による品質向上のほか、家畜の病気の予防・治療、飼育環境の衛生管理や環境整備、流通まで幅広く学べる。
 このほか、魚など水中の生物の生態を研究し、水産物の養殖や加工・品質管理など水産業全般について学ぶ水産学がある。地球規模での海洋調査も盛んに行われており、海洋生物資源の保護や将来の動向を予測する研究も進んでいる。

大学選び ココがポイント

 生物生産系は、農学系学部の農学科や園芸学科のほか、生物生産、生物資源といった学科で学べる。名前だけでは特徴がつかみにくい学科もあるので、大学案内などで研究内容を確認しておこう。また、酪農・畜産学、水産学は、学べる大学がそれほど多くないので注意が必要だ。



【農学(応用生命系)】

何を学ぶの?

●最新バイオ技術を食と環境に生かす

 農学(応用生命系)は、生物がもつ機能を研究して産業への応用をめざす学問だ。
 従来は、「農芸化学」と呼ばれ、化学を応用した肥料や農薬の開発、微生物の力を借りた酒やチーズ、ヨーグルトといった食品加工技術の研究が中心だった。最近では、遺伝子組換え技術などのバイオテクノロジーが発達し、それを応用した物質の開発や生産、生産環境の制御などの研究が行われている。生物学や生命科学ともつながりが深く、食品、医療、環境など応用される分野は多彩で、研究領域は幅広い。

大学選び ココがポイント

 応用生命系は、農学系学部の応用生物科学、応用生命科学、バイオサイエンスといった学科で学べる。バイオテクノロジーの応用については、工学系の生物工学科や応用化学科でも扱っている。植物、動物、微生物や食品など、研究対象は大学によって異なるので、各大学を調べて比較してみよう。



【農学(環境系)】

何を学ぶの?

●農業を取り巻く環境を考える

 農業の周辺環境の観点から研究を行うこの分野は、大きく次の3つに分けられる。
 「農業工学」は、環境に配慮しながら農作物を効率よく生産するための技術を研究する。トラクターやビニールハウスなどの農機具や施設を研究する農業機械系と、農地や灌漑施設など水資源環境の整備を研究する農業土木系がある。
 「森林科学」は、森林資源の保全・育成・利用、治山治水などについて学ぶ。研究テーマは、地域固有の問題から地球温暖化や酸性雨、砂漠化などの地球規模のものまで多種多様だ。
 「農業経済学」は、日本や世界の食料生産・流通・消費システムなど、農業を社会科学の視点から研究する。日本の農業の問題点や、TPPなど農産物貿易をめぐる国際的な問題も扱っている。

大学選び ココがポイント

 農業工学・森林科学は、生産環境、地域環境、緑地環境学科や農学科にあるコースで学べるが、設置している大学はそれほど多くなく、とくに私立大は数が少ない。実習・実験に関する設備や演習林などについても目を配っておくとよいだろう。
 農業経済学は農業経済、食料環境経済といった学科で学べる。また、農学科などにコースとして設置する大学もあるので、大学案内などで調べてみよう。

コラム ~農業のスマート化~

 多くの人が知っているとおり、日本の農業が抱える問題は多い。食料自給率は約40%と先進国の中では最低レベルだ。頻発する異常気象、農業従事者の高齢化や農業離れによる人手不足など問題は年々深刻化している。そこで注目されているのが、「アグリテック(農業(Agriculture)と技術(Technology)をかけ合わせた造語)」だ。人工知能(AI)やIoTを利用することで、農業の効率化とノウハウの共有をめざしている。最近ではスマートフォンやタブレット端末から操作可能なため「スマートアグリ」と呼ばれることも。ICT企業と大学による共同研究も盛んで、ビニールハウスのモニタリングシステムや農薬散布用ドローン、収穫作業支援ロボットなど、さまざまな技術が開発されている。
 「アグリテック」は世界中で注目され、実用化が進んでいる。たとえば、オランダは国土が狭く、年間を通じて低気温で日照時間も短いという農業には不向きな国だが、実は農産物輸出量がアメリカに次いで世界第2位。その農業大国を支えているのが「アグリテック」なのだ。ハウスや温室での栽培が主流のオランダでは、気温や湿度、日照状況などをすべてコンピュータで管理。また、LED照明を利用することで、短い育成時間での収穫・出荷を可能にしている。ほかの国でも、高層ビルを利用した垂直農業や海水を利用した砂漠での栽培など、各国がそれぞれの条件下で効率よく生産できる技術開発が行われており、ハイテク化によって少ない人材で多くの作物の収穫を可能にしているのだ。
多くの農業問題を抱える日本においてもこのような技術の早期開発・実用化が望まれており、農学研究への期待は大きい。



【環境学】

何を学ぶの?

●環境と人間の共生をめざす

 21世紀の最重要課題の一つである環境問題について、さまざまな角度から取り組んでいる比較的新しい学問が「環境学」だ。地球温暖化などのグローバルな問題から、ごみ処理やリサイクルといった身近な問題まで、扱うテーマは多岐にわたる。
 これまで環境問題は、生物学や農学など自然科学的な研究が中心だった。しかし最近では、人文・社会科学系の学部・学科でも、「環境倫理学」や「国際環境法」など環境問題をテーマとする研究が進んでいる。理工系でも既存の研究分野だけでなく、環境にかかわるさまざまな現象を解析する「環境数理学」、マルチメディアを駆使して環境問題にアプローチする「情報環境学」などの新たな学問領域が注目されている。

大学選び ココがポイント

 環境という多義的な概念を扱うため、環境学の研究手法や対象は大学によって異なる。「環境」と名のつく学部・学科は環境科学、環境システム、人間環境などさまざまだ。文系や理系の枠組みを越えて学際的に学べる学部・学科が増えている。環境問題について学びたいなら、自分の関心が自然環境にあるのか社会環境にあるのか、またその問題にどんな視点から取り組みたいのかをよく考えて、自分にあった学部・学科を探してみよう。



【獣医学】

何を学ぶの?

●動物を通じて生命科学を学ぶ

 獣医学では、家畜・動物の病気の診断や予防・治療法の研究だけでなく、動物用医薬品の研究開発、野生動物の保護・管理も研究対象だ。また、豚熱や口蹄疫、鳥インフルエンザなど、家畜や人間社会に甚大な被害を及ぼす病気の予防も重要なテーマとなっている。日本において獣医師はペットのお医者さんというイメージが強いが、公衆衛生や人獣共通感染症の専門家でもあるのだ。
 獣医学科の修業年限は6年で、獣医師の養成を主な目的とし、低学年次に解剖学や細胞生物学などの基礎的な知識を学び、3年次から専門的な研究が始まる。実習用動物を使っての実験・実習も行われる。5年次から病院での実習を行い、卒業研究を経て、国家試験を受けることになる。

大学選び ココがポイント

 獣医学は、獣医学部や農学部にある獣医学科で学べる。しかし、大学数は多くないため難関だ。近年では国際的な獣医学教育に対応するため、複数の大学で共同獣医学部や共同獣医学科を設置し、教育プログラムを連携して教育・研究レベルの向上をめざす動きがある。
 研究領域が広く、大学によって扱う動物の種類や重点を置く分野が異なる。各大学の特徴を調べ、比較・検討してみよう。実験や実習も多いので、施設・設備や付属の病院、牧場の充実度についても確認しておきたい。



© 河合塾 全国進学情報センター 『2021 大学受験入門誌 栄冠めざして Junior』 2021年


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