いざ学問選択! 【7.健康に生きる】

いざ学問選択! 【7.健康に生きる】

【健康に生きる ―健康を守り、豊かな「生」を支える―

私たちの健康な生活を支える医療。この分野をめざす人には、日々進歩し続ける医療技術についての高度な専門知識と高い倫理観が求められる。
 たとえば、他人の臓器を移植し人体機能を回復させる移植医療。心停止後に移植できる臓器は限られるため、「脳死」状態の人からの臓器移植が注目されている。ただし、脳死は「人の死」と言えるのか、「脳死」判定は正確にできるのかなど、倫理的な課題も残されている。
 医療・保健系の学問は、大きく2つに分けられる。医・歯・薬学系では、医療の知識・技術の修得はもちろん、新たな治療法の研究開発も行う。保健・医療技術系では、医師とともに「チーム医療」に貢献するスペシャリストの育成を目的とし、患者や障がい者、高齢者が快適な社会生活を送れるよう援助する技術を学ぶ。また近年では、生涯学習への関心や健康志向の高まりからスポーツの果たす役割が注目されている。「健康」「生きる」をキーワードにどんな学問があるのかを見ていこう。



【医学】

何を学ぶの?

●求められる高度な知識と倫理観

 医学は人体の仕組みや病気について学び、治療や予防に貢献する学問。高度な技術や専門知識の修得はもちろん、高い倫理観・道徳観や強い責任感が求められる。
 医学科は6年制で、1~4年次は教養科目や自然科学系の基礎科目、人体の構造・機能、医学・医療と社会とのかかわり、診療の基本に関することなどを学ぶ。5・6年次からは臨床実習がメインとなり、大学病院でいろいろな診療科をまわって、医療チームの一員として実際に患者と接しながら臨床経験を積んでいく。
 また、卒業後に進む診療科にかかわらず、すべての医学領域を学ぶ必要がある。発展し続ける膨大な医学知識に対応できる人材を育てるため、提示された事例から学生自身が問題を発見し解決法を探るPBL(課題解決型学習)という教育方法が、多くの大学で採用されている。

大学選び ココがポイント

 「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に基づいた教育が行われているため、教育内容はある程度標準化されているが、臨床中心の大学か、研究医の育成に力を入れている大学か、得意の専門分野は何かなど、大学ごとの特色をおさえておこう。地方での医師不足を背景に地域医療に注力する大学や、研究医不足を背景として2・3年次からの研究室配属に取り組む大学もある。私立大学の学費は総じて高額だが、卒業後の勤務条件によって返済不要の奨学金制度もあるので、調べておくとよい。



【歯学】

何を学ぶの?

●重要性の高まる口腔医療を担う

 歯学とは歯やあごなど、口の中や周辺に関する健康科学。食べることや話すことは、健康な口腔があってこそ成り立つもの。歯学では単にむし歯や歯周病の治療だけでなく、歯の健康をからだ全体の問題として取り組むべく、幅広い研究が行われている。
 歯学科は6年制で、1・2年次に一般教養とあわせて基礎歯学を学び、3年次から専門的な知識を修得していく。その後、医学科同様、5・6年次から臨床実習がスタートする。機材を使用した治療が欠かせないため、特殊技術の修得や理工学的知識も必要だ。

大学選び ココがポイント

 歯学部が設置されている大学は限られている。それだけに各大学の特徴はおさえておきたい。専門性の高い分野ではあるが、研究分野が広がりつつあるので、所属する教授の専門やカリキュラムなどは事前に調べておこう。国家試験の合格率も大学選びのポイントの一つだ。



【薬学】

何を学ぶの?

●薬のスペシャリストを育成

 薬学は、薬をはじめとする化学物質と人体のかかわりを研究する学問だ。新薬の開発をめざす製薬学、医薬品の調合・調剤・管理を学ぶ医療薬学、健康の保持と増進をテーマに安全性や環境に対する化学物質の影響を学ぶ衛生薬学などさまざまな研究が行われている。
 薬学部には、薬剤師養成を目的とする6年制の課程と、創薬研究に携わる人材の養成を目的とする4年制の課程がある。6年制課程では、薬剤師に必要な臨床系科目の履修や病院、薬局での実務実習を経て薬剤師国家試験を受験する。4年制課程では卒業後、大学院に進学し、さらに研究を続ける人が多い。

大学選び ココがポイント

 6年制課程のみの大学と4年制課程を併設する大学がある。後者の場合、入学時は学部一括で募集を行い、3・4年次に学科を振り分ける場合もあれば、初めから学科別に募集する場合もある。6年制課程で薬剤師をめざす場合は、各大学の薬剤師国家試験合格率だけではなく、入学者数に対する合格人数もチェックしてみよう。

コラム ~どうして薬は水で飲むの?~

 「薬を水以外で飲んでしまった」という経験はないだろうか。あるいは「薬はお茶で飲んではいけない」という注意を受けたことはないだろうか。なぜ薬は水で飲むのだろう。それは、薬によってはその効力がなくなってしまう場合があるからだ。たとえば、鉄分を含む薬を緑茶や紅茶で飲むと、お茶に含まれるタンニン酸によって鉄剤の吸収が抑制される。また、ある抗生物質は牛乳で飲むと、牛乳に含まれるカルシウムと薬の成分が相互作用を起こし、吸収が阻害されることがわかっている。
 また、血圧降下剤をグレープフルーツジュースで飲むと、薬の効き目が強くなりすぎて頭痛などの副作用を引き起こすことが知られている。グレープフルーツに含まれる成分が、薬の代謝を阻害するのが原因だとか。薬学の世界では、逆にこうした作用を応用して「少量でも同じ効き目のある薬」の開発が進められている。



【看護学】

何を学ぶの?

●体と心の健康をケアする

 看護学は新生児から高齢者まですべての人を対象に、看護に必要な知識を身につけ、ケアの方法を研究する学問だ。現代医療は、患者の病気の治療はもちろん、患者への配慮も重視されており、精神的なケアも行えるよう、高度な技術と知識をもったスペシャリストとしての役割が看護職には求められている。
 大学では、まず患者と接する際の基礎となる心理学や倫理学、人体の構造や機能などの医学的知識、医療制度について学ぶ。その後、基礎看護学や精神看護学、老年看護学、小児看護学、在宅看護学などを学び、医療現場での実習を通じて理論と実践の両面から裏付けられた知識と技術の修得をめざす。

大学選び ココがポイント

 看護系学部では、看護師のほかに保健師・助産師(→78ページ)の国家試験受験資格も得られる大学がある。保健師・助産師の資格も取りたい人は、学部で取得できるカリキュラムがあるのか、大学院進学が必要なのかを大学案内などで確認しておこう。



【医療技術系】

何を学ぶの?

●チーム医療の一端を担うスペシャリスト

 医療を行うのは医師だけではない。患者の症状を正確に把握する技術や身体機能を回復する技術も大切だ。医療技術系の学問は検査や治療の技術を研究・開発し、医師とともに「チーム医療」に貢献する。
 医療技術系の学科は大きく検査系とリハビリテーション系に分けられる。検査系では血液や尿、心電図、レントゲンなどで体内の生理状況を調べる。現代医療では、機器の高精度化とともに臨床検査で行うことも増えているため、学ぶ分野は広範囲かつ深いものになってきている。
 リハビリテーション系は理学療法、作業療法、言語聴覚・視覚機能療法の3つの分野に分けられる。理学療法は運動や物理療法により身体機能の回復をはかる。作業療法では工作や操作などの作業を通して生活機能の向上をはかる。言語聴覚・視覚機能療法では訓練指導を行い、言語聴覚、視力などの機能回復をめざす。
 どの学科も実習・演習が多くハードだが、学んだことがそのまま将来につながるだけにやりがいを感じられる学問だろう。

大学選び ココがポイント

 この学系は大学だけでなく、専門学校・短大も多いため選択肢が広い。また、資格の取得を目標としている場合が多く、進学した時点で自分の進路が決まってしまう学系でもある。同じリハビリテーション系でも理学療法学と作業療法学とでは担う役割が異なるので、卒業後の進路をしっかりイメージしておくことがポイントだ。



【スポーツ・健康科学】

何を学ぶの?

●スポーツと健康を科学的に研究

 スポーツ・健康科学は選手の競技能力向上だけでなく、スポーツと健康を多様な観点から科学的に研究する。健康志向の高まりから運動に興味を持つ人が増えている。年齢や性別、病気や障がいの有無などを越え、すべての人を対象とした運動や健康づくりまで、学びの対象は幅広い。
 スポーツ系では、小学校教諭や中学・高校の保健体育教諭、各種スポーツ競技のコーチ、トレーナーといった指導者の養成を行う。スポーツ障害の予防やリハビリテーションなど医学に近い分野、スポーツ関連のビジネスや行政について学ぶ分野もある。
 健康・福祉系では、栄養や福祉、看護、医療などとかかわり、健康に生きることを支援する知識と技術を修得する。最近では、スポーツ系と融合して各世代のライフスタイルに応じた運動やレクリエーションを通じて、健康の維持・増進を総合的に考えていく研究も出てきている。

大学選び ココがポイント

 体育学部やスポーツ科学部で学べるのが一般的だが、国立大では教育学部の総合科学課程(→40ページ)で学べる大学もある。学問として研究するだけでなく、競技選手の育成をめざす大学もあり、対象としているスポーツもさまざまだ。実習も重視されるので、施設・設備の充実度は確認しておこう。



© 河合塾 全国進学情報センター 『2021 大学受験入門誌 栄冠めざして Junior』 2021年


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