大学卒業後の進路

2022.1.4

大学卒業後の進路

【大学卒業後の進路】

 大学を取り巻く状況は近年大きく様変わりしています。少子化に伴う受験人口の減少によって「定員割れ」となる私立大も少なくありません。また、グローバル化や技術革新に伴う急速な社会の変化に対応できる人材育成をめざし、国は高校教育や大学教育だけでなく大学入試の抜本的な改革を進めています。
ここでは、入試の仕組みや概況をまとめるとともに、現代の大学事情や大学卒業後の進路について探ってみましょう。



変化する卒業後の進路

 大学卒業後の進路として主に挙げられるのは、就職と大学院への進学です。ここでは、大学生の就職と大学院進学の状況を中心に見ていきましょう。

 【表6】は大学生の卒業後の進路の変化を表したものです。折れ線グラフは就職率を表しています。2008年のリーマンショックの影響により新卒者の採用を手控える企業が増え、就職希望者にとっては厳しい就職環境が続いていました。近年、就職環境が好転していましたが、2021年3月の大学卒業予定者の就職内定率は82.2%(2020年12月1日現在 厚生労働省調べ)と昨年より4.9ポイント下がりました。新型コロナウイルス感染症による影響は大きく、今後の就職環境は厳しいものになると予想されます。

【表6】大学卒業後の進路.png



就活の低年次化と大学の手厚い援助

 大学では近年、従来の就職課を「キャリアセンター」としてサービスを拡充させ、学生の就活支援に力を入れています。最近のキャリア・就職支援のキーワードは二つです。
 一つ目は「低年次化」。学生の社会観や職業観の不足という問題に対応するため、早期から学生の職業観を醸成することや、公務員試験・資格試験の対策を目的としたキャリア育成科目を開講している大学も増えてきました。また、学生が一定期間企業に出向いて就業体験をする「インターンシップ」も多くの大学が企業と提携して行っています。こうした就業体験を通して職業観を育むとともに、自分のイメージと実際の仕事とのギャップを確認することができるのです。

 二つ目は、「きめ細かい個別対応」です。ポートフォリオ(学生の学修状況や成績、学修(授業)計画表やレポート、作品など、学びの状況を記録・蓄積したもの)を利用してキャリア支援・就職の個人面談を行ったり、個人・グループなど状況別に模擬面接を実施したり、企業に提出するエントリーシートの添削をしてくれたり、さまざまなサポートを受けることができます。さらに、未内定者には求人案内をメールで配信する大学や、キャリアカウンセラーを常駐させて学生の相談に親身に対応する大学もあります。

 このように大学が支援を充実させるのには、卒業者の就職状況やキャリア・就職支援が、大学選択時の重要なポイントの一つになっていることが理由として挙げられます。



ソーシャルメディアをフル活用した就職活動

 学生から企業へのアプローチは、インターネットを利用した方法がメインです。アプリやインターネット上に開設される就職ポータルサイトで企業研究や採用情報の収集を行い、興味をもった企業へのエントリー(資料請求や会社説明会の申し込み)を行います。エントリーだけでなく、かつては会場に学生を集めて行っていた筆記試験も、自宅やテストセンターのパソコンを利用して実施する企業がほとんどです。さらに最近では、TwitterやFacebookなどを利用して学生が情報収集や就活アドバイザーに相談をしたり、企業がLINEなどから説明会や座談会を告知したり、双方向型のコミュニケーションが可能となるSNSを活用した就職活動が盛んに行われています。

 また、現在の就職活動はかつてと比べて選考方法も複雑化しています。最初に提出するエントリーシート(ES)から事実上の選考が始まり、筆記試験も適性検査のようなものから、時事問題・小論文・作文を課すものまであります。面接は主に個人面接と集団面接があり複数回実施されますが、その形式はプレゼンテーション形式や、与えられた課題にグループで取り組む形式などさまざまです。最近ではWEBで面接を実施する企業も増えています。学生の自己PRも履歴書やESに文章で記入するだけでなく、スマートフォンなどで動画を作成・編集して企業に提出するなど、学生の独自性が求められるような選考が行われています。



採用の「厳正化」とその影響

 インターネットの利用によって学生への門戸が開かれ、企業への応募者数が増えたこともあり、企業側は本当に必要な人材なのかを見極めるために、選考を「厳正化」しています。その影響から、企業の広報活動や学生の就職活動が「早期化」、あるいは、内定を得た学生がより自分の希望に沿う企業への就職を求めて活動期間が「長期化」する傾向にあります。

 こうした状況に対して、大学や学生から学業に専念できないという不満の声が高まり、企業も学業への影響を考慮した結果、2017年4月入社の新卒者から、企業説明会などの広報活動開始が3月解禁、採用選考開始が大学4年生の6月からとなりました。しかし、最近では選考期間を通年化し、グローバル人材の獲得を狙う動きもあるようです。企業の動向や大学からの情報提供に注意しておくとよいでしょう。



資格取得と大学

 就職活動とその後のキャリアが少しでも有利になるよう、積極的に「資格取得」に取り組む学生が増加しています。大学進学と資格を関連づけて考えると、次のように分類できます。

 ①特定の課程等を修了し、卒業すると得られる資格
 ②卒業すると受験資格が得られる資格
 ③卒業後、一定の実務経験を積むと得られる資格
 ④卒業後、一定の実務経験を積むと受験資格が得られる資格
 ⑤大学進学とは直接関係のない資格

 教員免許のように、養成課程を修了すれば取得できるもの(①)もあれば、医師や社会福祉士のように特定学部の卒業が試験の受験資格となるもの(②)もあります。興味のある資格については、どのタイプのものかをきちんと確認しておきましょう。

 また、就職に少しでも有利な資格や人気の高い資格の取得をバックアップするため、TOEICや簿記などの検定資格講座のほか、公務員・教員採用試験や筆記試験対策、マスコミ対策など、就職を意識した特別講座を開講する大学も珍しくありません。なかには、学部に関連する資格を取得すると、単位として認める大学もあります。学内で受講できる場合、「移動時間の削減」「学外の専門学校よりも安価」など学生にとってメリットが大きいことも多いため、これらのバックアップ体制も志望校選択の検討材料に加えるとよいでしょう。

資格の種類 
資格は大きく「国家資格」「民間資格」の2種類に分けられます。「国家資格」は、法令に基づいて国が主催する試験に合格して得られる資格で、医師や弁護士などがあります。
また、教員免許のように大学の教職課程を経て取得するものもあります。
一方、「民間資格」は民間のさまざまな団体が独自の審査基準に基づいて与えているライセンスで、審査基準は各団体が決めています。そのため、臨床心理士など社会的に広く認知されているものからそうでないものまであり、資格に対する社会的評価はさまざまです。



大学院進学という選択

 大学院には、大きく分けて①修士・博士課程と、②専門職学位課程の二つがあります。①は研究者養成と高度専門職業人養成が目的であり、②は高度専門職業人養成に特化している大学院です。

 ①と②は修業年限や取得単位数などが異なります。①には、標準修業年限2年の修士課程と5年の博士課程(医・歯・獣医学と薬学の一部は4年)があります。博士課程は、区分制博士課程と5年一貫の博士課程に分けることができます。区分制博士課程は、前期2年、後期3年に分かれ、前期課程は修士課程と同様に扱われます。また、前期課程が存在せず、後期3年のみの博士課程もあります。法科大学院や教職大学院といった、②の専門職大学院の標準修業年限は2年です。①とは異なり、研究指導や論文審査は必須としない、弁護士など実務家教員を一定数含むなどの違いがあります。

 大学院への進学率(大学卒業者のうち大学院修士課程へ進学した学生の割合)は、80年代には5%前後と、ごく少数の人しか進学していませんでした【表7】。しかし90年代に入ると、進学率は上がり始め、2005年度以降は10~12%台を推移しています。

【表7】大学院への進学者数・進学率の推移.png
 学部系統別の進学率では、理学系で4割、工・農学系がそれに続き、理系学部出身者の割合が高くなっています【表8】。特に、国立大での進学率が高く、理・工学系では6割程度が大学院へ進学しています。

【表8】学部から大学院への進学状況(2020年度).png
 大学院進学者の増加には、大学院を設置する大学数の増加や国の大学院重点化政策で大学院の定員拡大など、進学の環境が整備されたことが背景にあります。国立大で進学率が高いのは、私立大に比べて大学院定員が多いことや、学部と大学院修士課程の6年間一貫教育を念頭に置いている大学が多いなど、進学しやすい体制が整えられていることが要因となっています。
 また、これまでは理系の進学率が高かった大学院ですが、人文系や社会科学系でも大学院進学が選択肢の一つとなっています。進学先も多様化し、同じ大学の大学院だけでなく、自分がより深めたい分野を研究できる研究室や設備が充実した大学院、場合によっては海外の大学院へ進学するケースも増えています。

 とくに理・工学系は、専門分野を生かして企業で活躍したい場合、少なくとも修士課程を修了した学生が求められているため、大学進学の時点で大学院も視野に入れた進路選択が重要となっています。学費等の必要経費に関しても、大学入学前にある程度目安を知っておくとよいでしょう。

専門職大学院
 専門職大学院の目的は、国家資格等と関連する分野や社会的に特定の高度な職業能力が必要とされる分野において、高度専門職業人を養成することです。
 法曹に必要な学識および能力を培うことを目的として開設された法科大学院や、実践的な指導力を持つ教員の養成を目的に開設された教職大学院のほか、会計、ビジネス・MOT(技術経営)、公共政策、公衆衛生、知的財産、臨床心理などの大学院があります。
 専門職大学院は従来の修士課程とはいくつかの点で異なります。標準修業年限は2年ですが、専攻分野によっては1年とすることも可能です。法科大学院(法学未修者課程)は3年となっています。修了すると、専門職学位が取得できます。




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