世界の非認知能力

フィンランドで教員をつとめた務めた徳留宏紀さんに現地の学びと非認知能力教育をきく(後編)

2024.12.4

フィンランドで教員をつとめた務めた徳留宏紀さんに現地の学びと非認知能力教育をきく(後編)

予測不能な未来を生き抜くために育みたい力として注目を集めている「非認知能力」。偏差値やテストの点数、IQなどとは異なる、心や内面に関わる力を指し、創造性、自分を信じる自己効力、忍耐力、決断力、疑う力、コミュニケーション力、表現力、など、さまざまな力が含まれます。海外では、そのような能力はどうとらえられ、生活や教育に息づいているのでしょうか。今回は、日本およびフィンランドで教員を務め、現在は幼児教育に携わっている徳留宏紀さんにお話をうかがいました。

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徳留宏紀さん
三宅町立三宅幼児園園長(奈良県幼保連携型認定こども園)。2013~2022年まで大阪府泉佐野市立新池中学校教諭を務める。2023年から1年間、フィンランドのヘルシンキ国際高校(Helsingin kielilukio)に勤務し、現地での生活を満喫するとともに、さまざまな出会いに恵まれたのち、日本に帰国。現在は、保育・幼児教育の世界を舞台に日々、管理職として奮闘中。
【主な著作】『教員だった僕がフィンランドで見つけた、「今」
を生きるために大切な5つのこと: ~「どうありたいか」「どう生きたいか」を探す365日の旅~』(単著、教育開発研究所) 『スウェーデンと日本発!非認知能力を伸ばす実践アイデアブック』(共著、東京書籍)


(この記事は、全2回のうち後編です。前編はこちら

 

生きる力を育む「フェノメノン・ベースト・ラーニング」

また、フィンランドでは教科横断的な学びとして「フェノメノン・ベースト・ラーニング」という、現象を基にした学びが実践されています。例えば、気温が0度からマイナス1度になる、という現象が起こったとき、私たちは何をしなければならないでしょうか。各教科に分かれた学びはそのままではどうしても実生活に反映しにくいところもありますが、実生活は本来こういった現象の連続であり、社会に出て求められるのはそれに対応できる力です。現象を対象とすることで、自然と教科横断的な学びと生きる力としての非認知能力育成を実現できます。もちろんその実践は、座学よりも生徒・教員ともに負担が大きく、困難や手探りも避けられませんが、生きる力を育む学びとして大切にされているのです。

 

そして、幼児教育へ

もともとは中学校の教員として、そして今回は高校でのアシスタント・ティーチャーとして務めてきましたが、非認知能力について学ぶ中で、もっとも大切な時期は幼児期なのではないか、その世界を学んでみたいという想いは常にもっていました。また、今回フィンランドからもち帰りたかったものの一つとして職員室の雰囲気のよさがあり、その雰囲気を作っている管理職という立場に大きな興味がありました。そんな中、幼児園の園長という仕事のオファーをいただき、管理職として、そして学びたいと願っていた幼児教育の世界に飛び込めるまたとない機会として一も二もなくお引き受けしたというのが、現在の仕事を始めるに至った経緯です。

 

「満たされる」ことがスタート

非認知能力を研究していた際、中山芳一先生が「家で例えれば、自己肯定感が土台、非認知能力は柱や筋交、認知能力が壁や天井など。土台がしっかりしていないと力を育むことはできない」という話をしていたのをよく聞いていましたが、今、それを現場で身をもって感じています。子どもたちの力を育むには、アタッチメントや愛着ということがとても大きな土台となります。安心や愛着を感じることができていなければ、レジリエンスだの何だのと説いてもそれがその子の中に本当の意味で浸透していくことはないのです。

フィンランドではたくさんの人に親切にしてもらいましたが、「何でそんなに僕に優しくしてくれるの?」と聞いたときの「自分が満たされているからよ」という答えが忘れられません。現在は、自分が満たされ、そして子どもたちと先生方を全員満たすこと、その目標を達成してからがスタートだと考え、毎日試行錯誤しています。まずは、あなたのことを大切にしているよ、というメッセージが伝わり、子どもたちや先生方が満たされた気持ちになってくれたら、そしてその先に、先生方と一緒に子どもたちの未来にはばたく力を大きく育んでいける未来を作っていけたら。そう願って、一日一日を大切に取り組んでいます。