【第10回】3分で読める実践型学習理論コラム! ー「とりあえず図を描いてみる」習慣を身につけようー

2021.12.1

【第10回】3分で読める実践型学習理論コラム! ー「とりあえず図を描いてみる」習慣を身につけようー

【第10回:「とりあえず図を描いてみる」習慣を身につけよう】

「新しい学力観」が提唱されてから早30年。指導要録は観点別となり、生徒の学ぶ「意欲」・「関心」の評価が重要視されるようになりました。これに合わせて、子どもの学ぶ「意欲」・「関心」という「見えない学力」、つまり定量化することが困難な非認知能力が注目されてきています。「生きる力」とも言われる非認知能力をご家庭でどのように伸ばし、未来を生き抜く力を身に付けることができるのか。

日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞に選出された神田外国語大学の高橋先生のコラムを全13編の連載形式でお届けします。

高橋先生.jpg神田外語大学 言語メディア教育研究センター 客員講師 高橋 一也(たかはし かずや)先生 
慶應義塾大学大学院、米・ジョージア大学大学院でインストラクショナルデザインを研究(全米優等生協会選出)、蘭・ユトレヒト大学大学院で認知心理学を学ぶ。2008年より都内の私立学校の英語教諭として勤務し、2016年度より中学教頭を務める。2016年には日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞の最終候補に選出される。現在、日本全国の学校で授業力向上の支援にも力を入れている。

 

ふと思いついたアイディアをレストランの紙ナプキンに書き、それが大成功につながった

という、まるでアメリカンドリームの典型みたいな話を聞いたことがあると思います。

IDEOというデザインファームのTim氏は思いついたアイディアを残すために、家のシャワールームの壁まで書き込み可能なガラスにしているというのは業界関係者の間で有名な話です。

ちょっとやりすぎ・・・・

と思っちゃったりしますよね。

でも、家の風呂の壁をホワイトボードにするという過激な行動を取る前に、この「とりあえずささっとイメージを描いてみる」というアクション、実はめっちゃ重要な習慣だったりするのです。

絵で物語を伝える

ステンドグラスをながめ、その息をのむほどの美しさに圧倒されてしまったことはありますか。

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また、バルセロナに行ったことがある方でしたら、サグラダ・ファミリアのファサードの彫刻をまじまじとながめてしまったと思います。

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しかし、ステンドグラスも教会彫刻もは「単なる」美しい飾りではありません。本来の役割は、物語を伝えることなのです。

ちょっと歴史的な話をしちゃいますが、実はステンドグラスが作られた頃、文字を読める人々は少なかったのです。

もっというと、物語の書かれている聖書はラテン語で書かれていたため、一般の人々は理解不可能だったのです。12世紀頃イギリスに関しては、聖職者はラテン語、王様はフランス語、一般庶民は英語もどき(そもそも英語自体がまだ完成していない)を話しているというバベルの塔状態だったのでした。

そこで、文字を読めない人々にどうやってキリスト教を布教するのかと頭をひねった聖職者(仏教風にいえば、坊さん)達は「イラストを使って」物語を伝えるという方法を考えついたのです。

身近な例では、絵本です。子どもに本は基本的に絵が多いですよね。もし、文字だけの本だったら・・・岩波文庫並みの硬度で、小学生は泣いちゃいますね。

絵は理解を助ける?

果たして絵は人々の理解を助けるのでしょうか。ここで有名な実験がありまして、ブランスフォード教授らが行った実験を紹介します。

大学生らを対象にした文章をどれだけ理解したのか、どれだけ覚えているのかを測定する実験を行いました。そして、次の様な条件を設定しました。

1 文章を読む前に絵を見せる
2 部分的な絵を見せる
3 見せない

皆さんの想像通り、文章を読む前に絵を見せたら理解力が高かまったようです。

この研究は以前紹介しました「先行オーガナイザー」と呼ばれるものの1種です。つまり、思考があっちこっちに行って散漫にならないように、あらかじめ思考の地図を用意してあげるというものです。

文章を読む前に、内容をイメージ出来る図があったりすると、理解力がぐんと高まるんですね。

ささっと図を書く練習をしよう!

ところが、ちょっと注意をしていただきたいことがあります。それは、ブランスフォード教授らの実験の条件を見て頂けると分かるのですが、「部分的な絵」では効果が無いのです。これは何を意味しているのかというと、図が「意味を伝える」ものになっていなければならないということです。

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左:完全な図  右:部分だけの図

図を書くときはストーリーをイメージして描いてみるといいみたいです!

例えば、東大の大村彰道先生が提唱している「教授マップ」があります。この図は、東大のマクロ経済学の授業(明らかに難しい・・・)で活用されたものです。大村先生の研究によると、この図を用いて授業を行ったところ、生徒達の内容理解度が高まったという研究報告がなされています。東大生でも、こういう図が必要なんですよ!

【詳細はこちらの本の、「文章理解:結束性と意味の創造」を参照のこと】

『文章理解の心理学: 認知,発達,教育の広がりの中で』大村 彰道, 秋田 喜代美, 2001, 北大路書房 『文章理解の心理学: 認知,発達,教育の広がりの中で』
  大村 彰道, 秋田 喜代美, 2001, 北大路書房
  www.amazon.co.jp/dp/4762822280





次に小学生の算数の例を見てみましょう。算数、特に文章題が苦手というお子さんも多いと思います。文章題に回答するためには大きく2つのパート、「理解」と「計算」(注:多鹿先生の論文など)に分かれるようです。多くの場合、計算にたどり着く前に、

いったい何のこっちゃ

と文章を理解する前で挫折してしまうという事件が多発しています。そこでオススメなのは、英語圏の算数の授業でよく使われる教え方、gradual reveal(徐々に明らかにする)という手法です。(←アメリカンスクールで働く友人に教えてもらいました。)

文章をいきなり全文読ませるのではなく、意味の塊ごとに紹介していきます。その際、先生またはファシリテーターの方は

 

What do you notice?
何に気付いた?

 

What do you wonder?
何かおかしいなと思ったところある?

 

のように、「気づき」を促す問いかけをしていきます。そうやって、徐々に条件や状況を確認して、図を書き足していく練習です。いきなり全文を読んで、

さ、図を書いてみましょう

というのは我が子をを千尋の谷に突き落とす獅子のようなものです。

 

まとめると算数の文章題を克服するためのポイントは3つ

1 文章を少しづつ読もう
2 気づきを大切にしよう
3 意味(ストーリー)のある絵を意識しよう

今回は、「とりあえずやってみる」のシリーズとして、「とりあえず描いてみよう」でした。

文章を読むときに「とりあえず」ささっとイラストを描いてみるところから始めてみましょう!

 

ーー参考

〇算数に関しては多鹿先生らの論文を参照のこと

(1994). 「子どもの算数文章題解決における文章理解の分析」

〇Bransford and Johnson, 1972

http://www.cogsci.umn.edu/docs/pdfs/Bransford1972-JVLVB.pdf

© 2021 Kazuya Takahashi   
出典:高橋一也 「3分で読める実践型学習理論コラム!」 https://note.com/playfulquest/n/ne2283422c19d 2021年

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