【第9回】3分で読める実践型学習理論コラム! ー教え合うことはなぜ大切なのかー
2021.12.1
【第9回:教え合うことはなぜ大切なのか】
「新しい学力観」が提唱されてから早30年。指導要録は観点別となり、生徒の学ぶ「意欲」・「関心」の評価が重要視されるようになりました。これに合わせて、子どもの学ぶ「意欲」・「関心」という「見えない学力」、つまり定量化することが困難な非認知能力が注目されてきています。「生きる力」とも言われる非認知能力をご家庭でどのように伸ばし、未来を生き抜く力を身に付けることができるのか。
日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞に選出された神田外国語大学の高橋先生のコラムを全13編の連載形式でお届けします。
神田外語大学 言語メディア教育研究センター 客員講師 高橋 一也(たかはし かずや)先生
慶應義塾大学大学院、米・ジョージア大学大学院でインストラクショナルデザインを研究(全米優等生協会選出)、蘭・ユトレヒト大学大学院で認知心理学を学ぶ。2008年より都内の私立学校の英語教諭として勤務し、2016年度より中学教頭を務める。2016年には日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞の最終候補に選出される。現在、日本全国の学校で授業力向上の支援にも力を入れている。
実は最近、面白いことが起こっているんです。
数年前、現在の学習指導要領が発表された時、
「アクティブラーニング」という言葉が完全に消えた!
と騒然となりました。結論からいうと、カタカナから「主体的・対話的で深い学び」という言葉に統一されたのでしたが・・・。
それで、そもそもそのアクティブ・ラーニングという言葉がいつ頃出てきたのかというと、2012年の中教審答申(8月)で
従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブ・ラーニング)への転換が必要である。
新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)
というところから一気にメジャーになったという感じです。つまり、アクティブ・ラーニングは2012-2017年の間にバズった言葉になりますね。
そして、2021年4月19日のとある学術論文では
その結果、講義に代わるものとして一般的に使われているアクティブラーニングは、高等教育のクラスルームでの実践において目的を果たしていますが、学習に関する研究を進める上では特に有用ではないという結論に達しました。
Doug Lombardi & Doug Lombardi(2021), The Curious Construct of Active Learning, https://onl.tw/AP8j2Si
On that basis, we concluded that active learning—which is commonly used to communicate an alternative to lecture and does serve a purpose in higher education classroom practice—is an umbrella term that is not particularly useful in advancing research on learning.
という話になっておりまして、アクティブ・ラーニングというのは現場では使われているけど、学習科学などの研究をすすめる上では曖昧すぎるよね、という結論になったそうです。
そもそも論として、その「主体的・対話的で深い学び」a.k.a.アクティブ・ラーニングとやらの重要なポイントは何なんでしょうか?
考え方をまなぶ
2000年代に世界中の教育界で起こったのはミクロでは脳科学の応用、マクロでは文化人類学・認知心理学の教育現場への転用です。その中でも1990年ひときわ注目を浴びた心理学者がおりました。その名は、バーバラ・ロゴフ。
彼女はヴィゴツキーの社会心理学的な考え方をさらに文化人類学的に拡張し、
人って自分だけでなく、周りの大人や友達からも学ぶ
という理論を全面展開しました。今、これを読んで
え?当たり前じゃん
と思ってしまった、あなた。
1980ー90年代はどんな学び方でしたか?日本ではSKY予備校が我が世の春を謳歌し、
「とりあえず知識詰め込んで、めざせ大学合格」
みたいな風潮でしたよね?その当時、共に学び合うことの重要性を論じる人なんて少なかったのです。
彼女は、特に初心者(学習を初めたばかりの人)が熟達者(先生など)から単なる知識を学ぶだけでなく、「考え方を学ぶ(apprentices in thinking)」と表現しました。☆つまり、初学者と熟達者は考え方が違うのです
例えば、子どもが親とブロックで遊んでいるとします。子どもは彼らなりのやり方でブロックを積んでいくでしょう。しかし、あるとき親が子どもでは考えることの出来なかったブロックの使い方で何かを作りました。子どもはそれを見て、
新しいブロックの使い方 と 新しいモノの概念(例えば、ほら、お城ができた〜。子どもは「お城」を見たことも聞いたこともない)
を学ぶのです。つまり、スキルと考え方が拡張されるのです。
「導かれた参加」
もう一つロゴフ先生の重要な概念が「導かれた参加」(guided participation)です。これを細かく説明すると長くなるので、ざっくりというと
学習者が参加しやすくなるように先生がロールモデルとなり、ある程度「教えて」から共に学ばせましょう
ということになります。
(☆意味の共有とか参加の構造とかに興味のある人はRogoff(1990)を読んでください。)
つまり、いきなり放置プレーをして、先生がいなくても生徒が学ぶ、とかそういうのではありません。
同じように、東大の市川伸一先生が「教えて考えさせる授業」という言葉で表現しています。昔から探究型の授業は一定のコアな人々から指示されていましたが、多くの場合誤解されていました。そうではなく、「教える」と「考える」は両輪であること、考えて分からなかったら「基礎に下りていく学習」が大切をかなり力説しています。それでも、まだ理解されていませんが・・・。
先ほどの子どもの例で言えば、ブロックでお城を作っているときに
親がやってみせて
子どもが考えて、分からなければ
親がまた少し手伝う (全部やってはいけませんぞ!)
というふうに子どもを学びに「導いて参加」させるということが大切なんですね。
「ガッコウ」という学び舎
そう考えてみると、ガッコウって本当はすごい学びの場なんですね。
だって、同級生もいるし、先輩後輩、そして先生。さらに、外部と連携している場合、社会で活躍する方々もいる。
ロゴフ先生は
「学びは社会的な営みであり、より優れた(知識があるとか、経験がある人という意味)との交わりの中で発達していく」
と何度も何度も繰り返しています。
だからこそ、共に教え合うのが大切なんです。
1人ではなく、友達がいて、先生がいて、親がいて、周りの支えがあって、「学び」が成立してることに感謝したいですね。
© 2021 Kazuya Takahashi
出典:高橋一也 「3分で読める実践型学習理論コラム!」 https://note.com/playfulquest/n/n42c322747a35 2021年
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