【第11回】3分で読める実践型学習理論コラム! ー「ゆるいモノ」から始めようー
2021.12.3
【第11回:「ゆるいモノ」から始めよう】
「新しい学力観」が提唱されてから早30年。指導要録は観点別となり、生徒の学ぶ「意欲」・「関心」の評価が重要視されるようになりました。これに合わせて、子どもの学ぶ「意欲」・「関心」という「見えない学力」、つまり定量化することが困難な非認知能力が注目されてきています。「生きる力」とも言われる非認知能力をご家庭でどのように伸ばし、未来を生き抜く力を身に付けることができるのか。
日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞に選出された神田外国語大学の高橋先生のコラムを全13編の連載形式でお届けします。
神田外語大学 言語メディア教育研究センター 客員講師 高橋 一也(たかはし かずや)先生
慶應義塾大学大学院、米・ジョージア大学大学院でインストラクショナルデザインを研究(全米優等生協会選出)、蘭・ユトレヒト大学大学院で認知心理学を学ぶ。2008年より都内の私立学校の英語教諭として勤務し、2016年度より中学教頭を務める。2016年には日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞の最終候補に選出される。現在、日本全国の学校で授業力向上の支援にも力を入れている。
砂でお城を作ったり、川に見立てた溝に橋を架けたり公園や海岸でよく見かける風景ですね。
子ども達はなぜこんなにも夢中になるのだろうと、大人は不思議に思ってしまいます。
小さいころ、公園に転がっている石ころも宝物のようにポケットにしまったことはありませんか?
石ころでさえ、子どもの手に掛かれば立派な舞台道具に変わります。
触れるものを全て黄金に変えたミダス王のように、子どもは手にするモノすべてに「意味」を付け加えることができるようです。
しかし、大人になったとたん、このような子どもの「みたて」遊びが苦行に変わってしまいます。
なぜでしょう?
今回はこの子どもたちが持つ「思考法」について少し考えて見たいと思います。
いろいろな見方
ちょっと、前に外資系コンサルティング会社の面接問題というものが流行りました。その中で、2種類の思考法が脚光を浴びました。
1つは、論理的思考。もう1つは水平思考というものです。
論理思考は思考の深まり、論理の妥当性を追求する考え方です。一方、水平思考は課題に対する視点の広がりを追求する考え方です。
「Discover (課題の洗い出し)、Define(課題の絞り込み)、Develop(解決策の洗い出し)、Deliver(解決策の絞り込み)」というブレストの定番の流れを元に作成。参考 British design council Eleven lessons: managing design in eleven global brands
わかりやすい例を大学入試問題から紹介しますね。(某国立大学医学部の問題です)
問1 資料として配付した封筒の中の鉛筆には、筆記用具として以外にも、さまざまな使いみちが考えられます。次の2つの場合を想定し、それぞれ、使いみちを、簡単な文や絵を用いてなるべくたくさん列挙しなさい。
問2 我が国の1年間のシャープペンシルを除いた鉛筆の生産本数は何本ぐらいだとあなたは推測しますか。あなたが推測した鉛筆の生産本数と、そう推測した根拠を、あわせて250字以内で書きなさい。
問1は水平思考の問題、問2は有名なフェルミ推定と呼ばれるものですね。問2はいろいろな情報を論理的に考えて、最適解を答える必要があります。
恐らく大人の方だったら問2の方がとっかかりやすいとおもいます。しかし、問1はどうでしょう。結構、悩んでしまいますよね。
子どもたちにとっては問1の問題は朝飯前なのではないでしょうか。しかも大人では想像もできない解答がバンバンと出てきて、授業でこれを扱ったらもうそれはそれは頭から湯気が出るほど盛り上がりそうですね。
大人になるとこのような柔軟な発想が苦手になってしまうことに関して、キチンとした研究というのは残念ながらないのですが(というか、不可能なのですが)、まず考えられる理由として、自分の思考の癖や方向性が身についてしまうということでしょう。
こういうボールがきたら、こう打ち返す。
思考の条件反射みたいなものが身についており、そのため省エネで情報を処理できるようになる一方、目の前の課題に対する切り込み方(観点)が固定されているのかもしれません。
『水平思考の世界』
エドワード デボノ, 藤島みさ子訳, 2015, きこ書房
www.amazon.co.jp/dp/4877713379
「ゆるいモノ」
近年、幼児教育では「遊び」の重要性が再認識されています。さらに、お決まりのオモチャではなく、loose parts(なんかいい訳が見つからなかったのでとりあえず「ゆるいモノ」)に脚光が当たり始めているようです。
この「ゆるいモノ」とは、簡単に言うと、
子どものイマジネーション次第でどんな風にでも遊べる物
という感じです。それは、自然のものであったり、人工物であったりもします。
例えば自然のものでいうと、枝や葉っぱ、石、砂、水、どんぐり、などなど、人工物だったら、ボタン、衣類、ワインのコルクなどなど
ディビッド・ラムジーという研究者によると「ゆるいモノは」
1 モノの取り合いにならない
だって、どんぐりとか石ころはたくさんあるから。既存の公園設備のように取り合いになったりはしない。
2 より参加しやすくなる
いろいろな組み合わせがあるから、こどもたちはどのような形であれ、貢献出来る
3 より多くの組み合わせ
自然物を使ったりすると、無限の組み合わせが可能となり、既存のオモチャのように飽きることはない
というメリットがあるそうです。
話をまとめると、何も高い知育玩具でなくても、「ゆるいモノ」を使うことで想像力をフルに働かせた遊びが可能となるのです。
子ども達を部屋に閉じ込めて、知育玩具で遊ばせるだけではなく、子どもたちが自由に想像力を解放出来るゆったりとした環境が重要なのです。
公園のなかにも、砂場がありますよね。そして、なぜか、子どもは既存の遊具よりも砂場の方が好きだったりします。それは恐らく、子供たちがより自由に想像の翼を羽ばたかせることが出来るからなのでしょう。
意味を作っていく
アイディアを活発化させるオススメの習慣があります。これは私が個人的にやっているだけですが・・・
コップ一杯のレゴを机の上に置いておきましょう。たぶんレゴショップに行けば1000円以内で購入できます。
【朝のオススメ】
家でも職場でもレゴを一握り用意しておく
1 何も考えず「指の思うまま」30秒ほどで作る
2 1分で作った物に対する考えを紙に書き出す
3 レゴと紙を写真に撮って日記にする
コーヒーがあるといい感じですよ。
学校の机にレゴを置いて、行き詰まったらよく作っていました。 pic.twitter.com/dknAVbjpNP
一方、子どもたちのこのような自由な発想はガッコウという場所ではなかなか受け入れられておりません。恐らくこういう反応でしょう。
遊びは大切なのは分かる。でも、勉強につながらない。
では、こういう順番考えてみたら良いのではないでしょうか。
1 「ゆるいモノ」に意味を与える
2 今度はパーツをつなげて、物語を作ってみる
3 どうすれば面白い話になるのか考えてみる
4 ほかの物語を調べてみる
5 さらに調べてみる
とりあえずやってみて、じゃ、調べてみようか
という問いかけが学びへを誘う仕掛けなのです。
とりあえずやってみて、深掘りする
子どもでも大人でも同じですね。
今日、通勤・通学途中に公園にでも寄り道して松ぼっくりや木の枝を拾ってみてください。何に見えますか?
そっと目を閉じて想像力を膨らませます。面白いことがぼんやりと浮かんできたと思います。
たまには子どものように想像力の翼、自由にはためかせてみてはいかがでしょうか。きっと何かいいアイディアが浮かんできますよ!
それでは、よい1日を!
© 2021 Kazuya Takahashi
出典:高橋一也 「3分で読める実践型学習理論コラム!」 https://note.com/playfulquest/n/n4bd94222cc37 2021年
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