【第5回】3分で読める実践型学習理論コラム! ー「なぜ」という質問は「なぜ」すごいのか?ー

2021.12.1

【第5回】3分で読める実践型学習理論コラム! ー「なぜ」という質問は「なぜ」すごいのか?ー

【第5回:「なぜ」という質問は「なぜ」すごいのか?】

「新しい学力観」が提唱されてから早30年。指導要録は観点別となり、生徒の学ぶ「意欲」・「関心」の評価が重要視されるようになりました。これに合わせて、子どもの学ぶ「意欲」・「関心」という「見えない学力」、つまり定量化することが困難な非認知能力が注目されてきています。「生きる力」とも言われる非認知能力をご家庭でどのように伸ばし、未来を生き抜く力を身に付けることができるのか。

日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞に選出された神田外国語大学の高橋先生のコラムを全13編の連載形式でお届けします。

高橋先生.jpg神田外語大学 言語メディア教育研究センター 客員講師 高橋 一也(たかはし かずや)先生 
慶應義塾大学大学院、米・ジョージア大学大学院でインストラクショナルデザインを研究(全米優等生協会選出)、蘭・ユトレヒト大学大学院で認知心理学を学ぶ。2008年より都内の私立学校の英語教諭として勤務し、2016年度より中学教頭を務める。2016年には日本人として初めてグローバル・ティーチャー賞の最終候補に選出される。現在、日本全国の学校で授業力向上の支援にも力を入れている。

 

「なぜそれが起きたのか?」

「どうしてそんなことしたの?」

毎日の仕事場で、そして子育ての場で耳にする言葉です。

しかし、この「なぜ」という質問を意識して使っている方は(かなり)少数派だと思います。

実は、この「なぜ」という質問、すごくいいんです。

どういいのかというと、「なぜ」という質問に答えることで、知っていることが整理され、より明確に覚えることが出来るようになるんです。

今回は、認知心理学で「精緻化」と呼ばれている研究についてご紹介します。

精緻化(elaboration)とは?

長年にわたる認知科学の研究から、私たちが持つ知識というのは「蜘蛛の巣」(ネットワーク)のようであるといわれています。(*諸説有り)

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記憶しているエピソードや事柄がそれぞれ蜘蛛の糸のようにつながっているイメージですね。

良く記憶しているということは、このネットワークが強く密につながっていると考えられています。

認知科学の領域で使われている「精緻化」という言葉は、特定のアイデアや概念に「意味のある」つながりや関連付けをすることを意味します。記憶のネットワークを改善するには、ただ覚えれば良いというのではなく、意味のある関連付けを繰り返し、ネットワークを強く密に繋げることが大切なのです。

「なぜ、なぜ、なぜ」

精緻化とは、新しい情報を長期的な記憶に定着させるための技術です。つまり、技術ですので「記憶を定着させる」方法があるのですね。

それは、「なぜ」という質問です。よくビジネス書などでトヨタが「なぜ」を5回繰り返すケースを紹介していますが、

それは仕事で習得した知識を「なぜ」と繰り返すことによって血肉化することなんですね。

『トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法』桑原 晃弥, 2018, KADOKAWA 『トヨタ式5W1H思考 カイゼン、イノベーションを生む究極の課題解決法』
  桑原 晃弥, 2018, KADOKAWA
  www.amazon.co.jp/dp/B07HGR88J3




つなり、「なぜ」という質問を繰り返すことにより、知識が整理され、これまで違うものと考えていた事柄と結びつき、より深い理解へとつながっていくようです。

つながりを意識させる

知識の精緻化を促すために、「なぜ」という質問をすればよいと書きましたが、以下のポイントにぜひ気をつけてみてください。

1 ノートに事柄を書き出してみて、つながりの「意味」を考えさせる。
  マインド・マップの作り方などを参考にしてみると良いでしょう。

『新版 ザ・マインドマップ(R)』トニー・ブザン,バリー・ブザン, 2013, ダイヤモンド社; 『新版 ザ・マインドマップ(R)』
  トニー・ブザン,バリー・ブザン, 2013, ダイヤモンド社
  www.amazon.co.jp/dp/4478017166




2 概念のつながりを相違点を考えてみる

3 自分の日常生活や仕事上の経験に結びつけて考えてみる。自分とのつながりを意識する。

あなたが誰かに質問する場合でも、また何かを学んでいる場合でもプロセスは同じです。ぜひ試してみて下さい。

例えば、英単語をただ覚えるのではなく、単語を分解してみて語源の意味や日常のイメージと連携させるグッと理解が深まるようです。研究では、この「なぜ」という質問は特に何かを初めて学ぶ方や小さな子供に特に有効とされています。時間はかかりますが、細々とした事柄を覚えるより、大きな概念を作った方が学びが加速するといわれています。

また、小さな子供に「どうしてこんなことしたの?」と親が聞くときがありますね。これは子供が「記憶」を整理する手伝いをしているのです。子供の場合、ノートに書き出させるのは難しいので、聞きながら事柄のつながりを言葉にしてもらうのを意識するといいみたいです。

「なぜ?」

これは仕事でも学校でも、そして子育てでも使えるマジック・ワードですね。ぜひちょっと意識して使ってみて下さい。

ただし、やりすぎると部下からも子供からも相当ウザがられますので、くれぐれもやり過ぎにはご注意を・・・。

お読み下さりありがとうございます!

ーー
*)この理論は記憶のコーディングと再生という視点の研究に基づいています。

参考

Willoughby, T., & Wood, E. (1994). Elaborative interrogation examined at encoding and retrieval. Learning and Instruction, 4, 139-149.

© 2021 Kazuya Takahashi   
出典:高橋一也 「3分で読める実践型学習理論コラム!」 https://note.com/playfulquest/n/ne4ae6bb8b4b6 2021年

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